「今なら分かる。サッカーをできる幸せが」【大久保嘉人インタビュー】

カテゴリ:Jリーグ

増島みどり(スポーツライター)

2020年05月15日

2020年5月15日は、静かな「記念日」となった

今季から東京Ⅴの一員になった大久保は、異例な自粛生活の中で何を思ったか。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 1993年5月15日、世界の舞台で戦うために発足したJリーグが国立競技場でスタートし、この日は「Jリーグの日」として記念日に登録されている。日韓W杯の日程によって試合が行なわれなかった2002年以外では初めて、リーグ戦が実施されない中で迎える28回目の記念日となる。

 村井満チェアマンは15日、「多くのファン・サポーターの皆さまの期待に応えるべく、選手たち、クラブ関係者、リーグスタッフ、パートナーの皆さまなどと手を携え、ワクワクするようなサッカーをお届けする日を目指して、全力で準備を進めています」と、再開への期待を込めてメッセージを発表した。14日には、新型コロナウイルス感染防止のために発令された緊急事態宣言の一部解除を受け、3月に専門家会議が提言していた感染予防のガイダンスを拡充した。21日の政府専門家会議(予定)、22日にはNPBとJリーグの第8回対策連絡会議、その後の臨時実行委員会で事態が前進する可能性もある。

 無観客試合での再開が決定しても、選手、家族、スタッフ、ボランティアなど全ての関係者の健康と安全の確保、地域による感染者数の大きな違い、都道府県間の移動の規制を自治体とどう調整するか、ブンデスリーガが全選手に行ったPCR検査に代わる検査の実際など、再開にはあと少し時間と段取りが必要だろう。

 出口の見えないトンネルで2か月以上を過ごしてきた選手たちは、「15日」をどう迎えたのか。2001年セレッソ大阪への加入から、マジョルカ、ヴォルクスブルク在籍中を除き、記念日を象徴するストライカーとしてリーグをけん引してきた大久保嘉人(37歳=東京ヴェルディ)は、困難と率直に向き合い、考え、トンネルの向こうに光を見つけている。

――――――――◆――――――――――――――◆――――――――

――トレーニングさえできない厳しい状態が、ほぼ2か月続いています。

大久保 本当に難しいね。想像していた以上に本当に難しい。最初の頃は、高いモチベーションを持って、家の周りをランニングし、それから公園でサッカーボール使ってドリブルとか、小学校の頃に1人でやっていたような練習を思い出しながら動いて、また家に帰って筋トレと、ハードにこなしていたんだけれど、あまりにも休止が長い期間になり、1人でできる限界が見えて来たところかな。

──前を向いて乗り越えましょうと言っても、そもそもどの選手も初めて直面する困難で、乗り越えられるのかは、今後にかかっています。限界と感じる点は?

大久保 例えば筋トレ。地味だけどキツイ練習だから、もし隣に誰かいれば、頑張っているからオレもやらなければ、とか、負けられないと気持ちが沸いてくる。でも、静かな中で、たった1人で同じ負荷をあげるのは本当にキツイ。誰も見ていない、そこで止めても何も言われない。じゃあ止めようかと思うと、今度はそういう自分が許せなくなる。逆に追い込んでやる、と考えるけれど、本当に難しい。
 
――メンタルも一定ではなくて揺れがあるんですね。休止期間中に変化したんでしょうか。

大久保 最初はモチベーション高めてずっと走り続けてきたけれど、それだけで最後までは無理だった。そうすると今度は1人でやれる限界が分かってきた。どんなに練習を続けても、本当にこれで大丈夫なのかな、これが試合で何につながるんやろう、と思ってしまう瞬間がある。でもここで止めてしまうと、再開した時に怖いな、試合で動けなくなるんじゃないか、という気持ちもあって、そこでものすごく葛藤した。

――そうした葛藤も前進なんでしょうね。高いモチベーションを維持した時期から葛藤期があって、次はどんな時期に?

大久保 今は、再開した時を強く考えてイメージしながらやろうと思っている。これまでケガをした時なら、リハビリでチームに合流するとか、目指している場所ははっきり見えていた。でも、先が見えないなか、これだけサッカーを離れてみて、初めて気付かされたものがあった。

――01年にセレッソ大阪に入って19年もプロでやってきた37歳でも初めて?

大久保 今までサッカーをやっていた毎日って当たり前じゃなくて、どれだけ幸せだったんだって。もし練習が始まったら、今までとは全然違う気持ちでトレーニングに取り組めるだろうし、試合にも挑めると思う。怪我で離脱した時って自分が早くみんなに追いつかなきゃと思っているし、試合に出られなかった時は『何で?』と不満も持つ。今は、どれとも違う気持ちで、幸せなんだ、と分かる、そういう思いはプラスになったかな。

――暗闇だから、気が付かなった光も見えるかもしれない、とよく言われますね。

大久保 今は再開が明日、と言われてもいいように準備している。さっき言ったようにそれはほんとに難しいし、1人の練習はきつい部分が多いけれど、そうなると、今度は1人で妥協しないためのメンタルを作る大きなチャンス。自分には絶対負けないように、と、最初の頃とは違う気持ちで追い込んでいる。
 
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