ニューヒーロー賞・宇佐美貴史はなぜ、ドリブルで抜き去ることができるのか 【フィジカル的側面から解析】

2014年11月06日 澤山大輔

魚のように柔らかく動く背骨。

アウトフロントを巧みに使って相手を抜き去る宇佐美。その凄さをフィジカル的側面から解き明かす。 (C) SOCCER DIGEST

 宇佐美貴史選手の強みはなんといってもドリブルですが、その特徴は『相手の間合いに入る前にスピードで抜き去る』、『相手の間合いに入っても、抜くことができる』と言えるでしょう。こうしたドリブルができるのは、日本では数少ない才能を持った選手だけではないかと思います。
 
 普段の練習風景などを見ても、ドリブルをしながら右足と左足でボールを細かく触っていますが、左右の足でタッチの差がありますね。特に右足のアウトフロントの使い方が巧みで、相手の間合いに入ってからの右足の逆エラシコ、これが非常に効いています。
 
 右足でフェイントを入れる際に軸足となるのは左足ですが、宇佐美選手は軸足の股関節の内旋(内側に捻る動き)が非常に上手いです。これが外旋(外側に捻る動き)になってしまうと、体幹がぶれて相手に動きを読まれてしまいます。股関節回旋の使い方が上手いために、重心が大きくぶれることなくフェイントを仕掛けられるのです。
 
 それから、下部体幹(お腹のあたり)の使い方が滑らかですね。身体を横にずらすとき、背骨に側屈の動き(横に曲がる)が入るのですが、同時に回旋の要素も加わります。胸椎の5番目から8番目あたりの回旋要素が大きいのですが、ここの動きがスムーズにできないと、その"代償"として他の部分の背骨が必要以上に動きを要求され、結果として余計なエネルギーを使ってしまいます。腰痛などの原因にもなりかねません。宇佐美選手の背骨はいわば、魚のように柔らかく動いているわけです。
 
 スピードも半端ではありません。例えばリオネル・メッシ選手は、相手の間合いに入ってから小刻みにステップを踏んでドリブルをしたり、相手のタイミングをずらしたりするのが非常にうまいです。宇佐美選手は、シンプルにスピードで抜いてしまえます。
 
 このスピードを実現しているのが、下部体幹と股関節の柔軟性です。誰にでも共通していることですが、下部体幹と股関節が柔らかく使えないとスピードに乗れません。地面からの床反力(ゆかはんりょく=反発力)は、普通だと股関節の少し後ろ側を通ります。宇佐美選手は、床反力を一瞬ではるかに後ろに通すように使えています。
 
 そして、アウトフロントをうまく使えることも大きいですね。インサイドで一度ボールを止めるよりも、重心がぶれにくいため、加速態勢に入るのが断然速いわけです。
 
 あとは、相手の動きを予測するのが非常にうまいですね。相手が止まるのを待ってからドリブルを仕掛ける選手も多いですが、宇佐美選手は相手が止まる前にドリブルを仕掛け、逆エラシコなども駆使します。それでいて、一気に加速できる能力を持っている。相手を抜けるドリブラーの特長を兼ね備えていると言えるでしょう。
 
 以前に所属したホッフェンハイムでは、練習試合のダルムシュタット戦で4人抜きのドリブルシュートを披露しました。このプレーは凄かったですね。3人目をかわす際に体勢を崩しつつも右足でのエラシコを使い、すぐに立て直して最後はゴールまで決めたのです。

次ページシュートを放った後にバランスを崩すのは課題。

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