J1後半戦へのビジョン|大宮編|攻守の連動性向上と陣容再編で新スタイル確立へ

2014年07月04日 芥川和久

セルビア代表FWの獲得で、攻撃のバリエーション増に期待。

14節終了時で17位と低迷。陣容の再編と攻守の連動性アップで巻き返しを図る。 (C) SOCCER DIGEST

 リーグ再開に向け、大熊監督が掲げたテーマは、「90分間、人が走り切り、ボールも走らせるサッカー」だ。6月16日から7日間の嬬恋キャンプでは徹底的にフィジカル強化が行なわれ、大宮の練習場に戻ってからも連日、負荷を高めたメニューが組まれている。
 
 指揮官が運動量にこだわるのは、ただ単に走り勝つためではなく、戦術的な目的がある。守備では前線からアグレッシブにプレッシャーをかけ、攻撃は縦に速く仕掛ける。それをコンパクトな陣形でやり切るためには、絶対的な運動量が必要不可欠であり、リーグ中断期間の前半を通じてフィジカル面の準備を整えた。後半は戦術的な部分を詰めていく作業に重点が置かれるだろう。
 
 ただ、6月28日の横浜、7月1日のU-19日本代表との練習試合を見る限り、前線からプレスをかけるものの、連動性を欠いて後手を踏み、ズルズルとラインが下がってしまう場面が目についた。ボールホルダーに対する寄せが甘ければ、最終ラインを押し上げようとするぶん、裏を取られる危険性は増す。今後は、「連動して行ける時は行って、行けない時はしっかりブロックを作る」(大熊監督)というチームとしての意思統一を図らなければならない。
 
 一方攻撃では、優先順位としてまず裏を狙い、無理であれば足下でつなぐ意識をキャンプから植え付けてきた。U-19日本代表戦では、ボランチから一発のミドルパスで最終ラインの裏を取り、ゴールを奪ったように、「全体的に裏への意識が出てきた」(渡邉大剛)。ただ、ボランチが最終ラインに落ちる形でのビルドアップが十分に洗練されておらず、ボールを回す位置が低く、低い位置からイチかバチかの裏狙いが多いのも現状だ。大熊監督は、「ボランチがサイドを変えて幅を使い、高い位置に出て攻撃に絡む」という形を目指しており、チームとしてこれをどう実現し、機能させていくかが課題となる。
 リーグ再開後のスタメンには、幾つかの変化が見られそうだ。昨年来CBのレギュラーだった高橋祥平を左SBにコンバートし、同じく右SBのレギュラーだった今井智基をCBにコンバート。高橋のビルドアップ能力をサイドの高い位置で生かし、今井のスピードとフィジカルの強さで最終ラインを高く押し上げるのが狙いだ。さらに高橋には、押し上げた最終ラインの裏をカバーする役割も期待される。
 
 また7月に入り、現役セルビア代表で昨シーズンのセルビアリーグ得点王のドラガン・ムルジャを獲得。すでにチームに合流している。裏抜けの上手さと決定力を併せ持つCFの加入によって軸ができれば、サイドに流れてチャンスメイクを得意とするズラタンも生きるし、家長昭博を中盤に戻すことで、より的を絞らせないバリエーション豊かな攻撃が可能になる。
 
 怪我人が相次いだボランチもほぼ全員が戦列に戻り、巻き返しに向けて体勢は整った。リーグ再開に向けて、いかに新スタイルを熟成させられるか、大熊監督の手腕が問われる。
 
取材・文:芥川和久(フリーライター)
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