J1後半戦へのビジョン|新潟編|新戦力の韓国人SBがキム・ジンス移籍の穴を埋める

2014年07月02日 大中祐二

キム・ジンスとは異なるスタイルで貢献できる左SBを獲得。

序盤戦は勝ち切れない試合が多かった新潟。新戦力の加入が浮上への起爆剤となるか。(C) SOCCER DIGEST

 新潟は大きな動力源を失ってしまった。パワフルな突破で推進力を生み出していた左SBのキム・ジンスが、欧州シーズンの開幕を前にドイツのホッフェンハイムに移籍したのだ。
 
 キム・ジンスは、新潟にとって大きな存在だった。右足首の怪我のため大会前に離脱を余儀なくされたものの、ワールドカップの韓国代表に選ばれ、1月から継続してオファーを出し続けていたホッフェンハイムは、今回のメディカルチェックでその右足首が全治3か月と診断されたにもかかわらず、ためらわずに獲得した。そうした高い評価からも、キム・ジンスの希少価値は窺えるはずだ。
 
 何よりキム・ジンスのクロスに対してFW川又堅碁がニアに飛び込む形は、昨シーズン数多くのゴールに結びついた。それだけに左SBの後任探しは、6月22日から1週間、富山の魚津で行なわれたキャンプの重要なテーマでもあった。
 
 その有力候補のひとりが韓国の蔚山現代から期限付き移籍で加入したイ・ミョンジェである。大学(弘益大)卒業を待たずKリーグの強豪・蔚山入りした20歳のイ・ミョンジェは、4月のACL・貴州人和戦では先発出場もしている。
 
 キャンプ初日から合流したイ・ミョンジェは、1週間の魚津キャンプを締めくくった北陸大との練習試合で、前半の45分間プレーしている。目を引いたのが、ビルドアップでの落ち着きである。球離れがよく、CBやボランチにどんどん正確なパスを出してはサポートの動きを繰り返せる。そうしたイ・ミョンジェのプレーは、パスワークのリズムを乱さず、サイドハーフと連係しながらどんどん縦に仕掛けるキム・ジンスとは、また違ったスタイルでボールポゼッションに絡んでいきそうだ。
 
 ただし、まったく縦に勝負できないわけでもない。まだ言葉でのコミュニケーションがほとんど取れないにもかかわらず、練習試合でも要所で深い位置まで攻め上がり、きっちりクロスを供給していた。
 もっとも、即戦力になれるかどうかは、チーム合流から1週間で判断するのは難しい。まずは攻守両面で新潟のやり方に、フィットできるかだろう。魚津キャンプでも、練習後に柳下正明監督自らイ・ミョンジェに、ポジショニングや動き方を指導する光景が連日見られた。
 
 柳下監督が左SBに求めるのは、ボールを前に運ぶ推進力とビルドアップにおける冷静さだ。そうした要求に応えながら、いかに持ち味を出していけるかがポジション争いの鍵になる。北陸大との練習試合の後半、左SBとしてプレーしたベテランの坪内秀介、リーグ中断前に負傷したキム・ジンスに代わり左SBを務めた大野和成らと競っていくことになる。
 
 北陸大戦の後、「もっと仕掛けられるタイミングがあった。日本語を早く身につけないと」と、もどかしそうに話したイ・ミョンジェ。時に「(公式戦を)やりながら覚えていくしかない」とも語る柳下監督だけに、リーグ再開までの短期間にイ・ミョンジェの推進力とビルドアップ能力が認められれば、コミュニケーション面での多少の難には目をつぶり、リーグ戦でいきなり抜擢される可能性も十分にありそうだ。
 
取材・文:大中祐二(フリーライター)
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