【連載】蹴球百景 最終回 「『雑』が許されない時代に」

2018年02月01日 宇都宮徹壱

日本から週刊サッカー雑誌がなくなってしまったのも、ある意味時代の必然

雑誌とウェブサイトで10年間にわたって連載が続いた『蹴球百景』。今回で連載は最終回を迎える。(Tokyo. 2018)

 週刊サッカーダイジェストで『蹴球百景』という連載がスタートしたのは、2008年の7月のこと。今からちょうど10年前の話である。08年といえば、フットボールファンにとってはオーストリアとスイスで共同開催されたEURO2008で、スペインが優勝したことがまず思い出される。彼らの黄金時代の起点となったのが、まさにこの年であった。国内に視線を転じると、前年に病に倒れたイビチャ・オシムに代わって岡田武史が日本代表監督に就任。前任者の意志を引き継いで、この年から本格的に2年後のワールドカップ出場を目指すこととなった。
 
 この年は、アメリカ大統領選挙でバラク・オバマが勝利したり、リーマンショックで世界経済が一気に冷え込んだりと、いろいろと振幅の大きな一年でもあった。そんななか、その後のわれわれの生活を激変させる出来事が、奇しくも連載が始まった7月に起こっている。それはiPhoneの日本発売。当時はソフトバンクのみの扱いで、通信も3Gであった。この時、日本の家電メーカーの多くは「こんな大きな携帯電話が売れるわけがない」とタカをくくっていたという。彼らの作ってきた商品が「ガラパゴス」と呼ばれるまで、さほどの月日を要することがなかったのは周知のとおりだ。
 
 iPhoneによって駆逐されたのはガラケーだけではない。影響はやがて、雑誌や新聞といった紙媒体にまで及んでゆく。気がつけば、電車の中で新聞や雑誌を開く人はほとんど見かけなくなってしまった。iPhoneを含むスマートフォンの普及は、紙メディアをことごとく追い詰めてゆく。
 
 サッカー専門誌が受けたダメージも深刻であった。何しろ国内外のサッカー情報が、新聞やTVのニュースよりも早く、しかも無料で読めてしまうのだ。こうなると専門誌はとても太刀打ちなどできない。14年末を最後に、日本から週刊サッカー雑誌がなくなってしまったのも、ある意味時代の必然であった。
 
 この『蹴球百景』は、週刊時代は隔週での連載が続き、発売が月2回となってからは月1での連載となった。その後、15年9月にいったん紙での連載が終了となったものの、1年後にはウェブ版で復活。以後、34回にわたって続いてきたが、ついに今回で最終回を迎えることとなった。雑誌時代であれば、インタビューものや戦術分析などのカッチリした記事の中で、箸休め的なフォトエッセイもそれなりに需要はあったと思う。しかしウェブの場合、雑誌とは見え方がまったく違う上に、どれだけ読まれたかがシビアに数値化される。そうなると「箸休め的なフォトエッセイ」が入り込む余地などない。
 
 紙で連載していた頃、マニアックな国やカテゴリーのサッカーを扱うことができたのは、雑誌がそういう鷹揚なメディアだったからだと思う。雑誌の「雑」という字を辞書で引くと、「大まかでいい加減」という意味とは別に、「いろいろなものが混じっていること。区別しにくいものをまとめたもの」という意味もある。まさに後者こそが雑誌の魅力であり、だからこそ私のようなアウトサイダーでも長年にわたり連載を持たせていただけたのだと思う。世は移ろい、「雑」が許されない時代になったが、それでもサッカーは続く。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
 
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