再建を託された「プロフェータ」――エルナネス|インテル

2014年02月20日 神尾光臣

優れた攻撃センスに労を厭わない守備への貢献

2000万ユーロ(約28億円)の移籍金は、今冬のセリエAの移籍市場で最大のビッグディール。インテルの期待の高さを物語る。 (C) Getty Images

 インドネシア人実業家、エリック・トヒルが会長になって初めて迎えた今冬の移籍市場。経営再建の煽りで低迷するインテルが、再建の切り札として獲得したのがエルナネスだ。ラツィオに支払われた移籍金は2000万ユーロ(約28億円)で、今冬のセリエAでは最大のビッグディール。このブラジル代表MFは、それだけの才能の持ち主だ。

 プロデビューはブラジルの名門サンパウロ。2007年からスタメンに完全定着し、チームをカンピオナット・ブラジレイロ(全国リーグ)優勝に導くと、自身も2年連続でリーグのベストイレブンに。当然その名は欧州に轟き、複数のビッグクラブによる争奪戦の末にラツィオへ移籍してからも、外国人選手には順応が難しいとされるセリエAで瞬く間に輝きを放つ。

 利き足の左足とほぼ同じように右足を使いこなし、その両足から繰り出す質の高いキックを駆使した展開力でゲームを組み立てながら、単独でのドリブル突破からチャンスを作り出せば、強力なミドルでゴールを奪う。ラツィオ入団1年目の10-11シーズンにいきなり11ゴールを奪い、あのパベル・ネドベドに肩を並べた。MFによるシーズン最多得点のクラブレコードに並んだのだ。

 ただし、卓越した攻撃力だけが魅力ではない。労を厭わず守備に走り、ハードなタックルを相手に見舞う。MFとしての高い完成度、攻守に渡る高い貢献度こそ、インテルの首脳陣がなにより評価したポイントだ。

 プレスに奔走し、守備に身体を張り、ボールを持てば広い視野で的確にパスを振り分け、さらにはゴールも決めるエルナネスは、世代交代の過渡期にあるインテルのMF陣をそれこそ導く存在だ。パワーは満点ながら安定感に欠けるフレディ・グアリン、好不調の波が小さくないリカルド・アルバレス、イタリアならではの戦術的要求に応えきれていないマテオ・コバチッチ。彼らをフォローしつつ、攻守にクオリティーをもたらしているのだ。優れた展開力は、長友佑都をはじめとするウイングバックの持ち味もさらに引き出すだろう。

 敬虔なクリスチャンで、「プロフェータ(預言者)」の異名を取る。人々を教え、諭すように、過渡期のチームを導き、卓抜したテクニックでピッチに“奇蹟”を描き出す。エルナネスはまさしく、迷えるインテルを救う預言者だ。
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