いまも続く「ヘディング死」遺族の戦い

2014年04月10日 サッカーダイジェストWeb編集部

「Justice For Jeff(ジェフのために正義を)」――。

3月22日のハル戦から始まった横断幕の掲出。今後もこの運動は継続されるという。 (C) Getty Images

 4月5日のプレミアリーグ、ノーリッジ対ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)の一戦で、WBAサイドのスタンドに掲げられた横断幕には、60年代にこのクラブでプレーし、イングランド代表として70年メキシコW杯にも出場した名ストライカー、ジェフ・アストルの名が掲出されていた。

 ジェフ・アストルは2002年、59歳でその生涯を閉じた。死因は、現役時代にヘディングをし過ぎたことによる脳の損傷と診察された。当時は革製の非常に重いボールを使用しており、これをヘディングする際には頭部への多大なダメージが伴ったといわれている。アストルは晩年、自分の孫の名前も覚えられないほどの重篤な認識障害に苦しめられていた。

 FA(イングランド・サッカー協会)は「ヘディングの危険性が明らかにされてショックを受けている」との声明を出し、アストルの遺族に対しては10年間の期限で調査を行なうことを約束したにもかかわらず、以降明確な説明をすることはなく、12年経った今年になって、FAのグレッグ・ダイク会長がお悔やみの手紙を未亡人に送るだけにとどまっていた。

 ヘディングとアストルの死の因果関係を明確に認めないFAに対し、遺族はついに腰を上げた。アストルと同じ症状に苦しんでいる過去のプロ選手を探し出す他、同志の協力を得てWBAの試合時にスタジアムで横断幕を掲出するなどの運動を起こしている。「ヘディングによる脳障害でどれだけ多くの人たちが、大切な家族を失ったのかを明らかにしたいのです。そして、この遺族たちをサポートしていきたいと考えています」とはアストルの未亡人。正義のための戦いは長く続いていくことだろう。

 現代のサッカー界では、あらゆる医学的サポートを選手は受けることができ、用具も飛躍的に進歩して、身体に優しく、なおかつ身体能力を引き出せるものとなった。アストルはサッカーの進歩の過程における犠牲者と言えるかもしれないが、今後の進化においては、このような悲しい犠牲を払う必要のないよう、サッカー界を司る人々には細心の注意を願いたいものである。

サッカーPHOTOダイジェスト――写真で切り取る世界のサッカー(2014.4.5~4.10)
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