【鹿島】傷つき、涙する助っ人を見て……。悲壮な覚悟で、小笠原満男は立ち上がった

2017年05月13日 内田知宏

「いつか誰かが言わないと、ひどいことになる」

傷つけられた仲間のために、そしてJリーグのことを考えても、今回の一件は小笠原にとって黙っていられる問題ではなかった。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 2007年のことだったと記憶している。
 
 鹿島のサポーターはキックオフ直前に、先発メンバー、一人ひとりの名前を叫ぶ。セリエAのメッシーナへの期限付き移籍を終え、鹿島に復帰した小笠原満男は、スタンドから自分の名前が聞こえると、軽く右手を挙げて応えるようになっていた。
 
 それまでは、「声援が力になる」という類いの言葉を表だって口にはせず、サポーターからのコールにも反応しなかった。「結果で応える」と考える選手の大きな変化だった。
 
「昔はJリーグにも世界的に有名な選手が来て、リーグ全体も盛り上がったよね。彼らはお客さんを呼べる選手だったし。俺らもそういう選手と一緒にプレーして、練習して、刺激になった。
 
 でも、今はクラブに世界的な選手を呼べるだけの体力がないから仕方がない。だから(小野)伸二とか、イナ(稲本潤一)とか、Jリーグに戻ってきているし、俺らの世代がJリーグを引っ張っていかないといけない。それが役割だと思う。俺は地味だけど、彼らはお客さんを呼べる選手だし」
 
 イタリアから帰ってきた小笠原は、この考えを軸に行動するようになった。自分の名前がコールされても、他の選手のようにお辞儀をすることはなく、視線も向けない。だが、ただそっと右手を挙げて応える姿は「おう、任せておけよ」と言っているようで、それはそれで頼もしさを感じさせる。
 
 その小笠原が5月4日、浦和戦で森脇良太の発言を巡り、メディアの前に立った。「くせえんだよ」とチームメートのレオ・シルバに差別的発言があったと主張した。
 
 森脇は、小笠原への発言だったと釈明。Jリーグはふたりへの事情聴取を行なったが、結局、誰に向けた発言かを特定できず、規律委員会は鹿島選手への「侮辱行為」があったとして、森脇にリーグ戦2試合の出場停止処分を下した。
 
 小笠原によると、過去に元鹿島のダヴィやカイオらへも同様の発言があり、試合後、暴言を受けたブラジル人選手がロッカールームで泣いている姿も目の当たりにしてきたという。
 
「いつか誰かが言わないと、ひどいことになる」
 
 メディアの前に立った理由を小笠原はこう説明する。侮辱的な発言が証明されないケースも想定され、その場合は自分が責められることになる。
 
 だが、それも覚悟のうえで「このまま見過ごしていられない」と行動に移した。
 
「バブル」と言われる時期も、「低迷期」も経験してきたJリーグは、今季で25年目を迎えた。多くの外国人助っ人が参戦してきたなか、給料の未払いもなく、クリーンなイメージが定着している。
 
 だからこそ、今も多くの外国人選手が来日するのだろう。今回、差別的な発言があったかは不明のまま終結したが、少なくとも、レオ・シルバを傷つけたこと、苦労しながらも発展させてきたJリーグのイメージを低下させる行為だったと言える。
 
 それは、リーグ全体のことを考える小笠原にとり、黙っていられる問題ではなかった。
 
取材・文:内田知宏

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