ミランのマヌエル・ロカテッリは、2016年10月の出来事を決して忘れないだろう。サッスオーロ戦（７節）でセリエA初得点を決めて涙を流し、ユベントス戦（９節）では名手ジャンルイジ・ブッフォンを相手に見事なミドルシュートを叩き込んでチームに勝利をもたらし、一躍「時の人」となったからだ。
 
　だが、19歳になったばかりだけにパフォーマンスがまだ安定しない。年明けの１月25日に行なわれたコッパ・イタリア準々決勝のユベントス戦では、２点ビハインドからチームが１点を返した直後に退場。反撃ムードに水を差し、続くウディネーゼ戦（22節）でも１点をリードしていた前半途中に軽率なパスミスから同点弾を招いてしまった。
 
　ロカテッリは出場機会こそ得ているものの、以前のような安定感は失われ、当然のように手厳しいイタリア・メディアからこき下ろされた。19歳の青年にとって、その重圧に立ち向かうのは容易なことではないはずだ。
 
　だが、本格的にセリエAを戦うのは今シーズンが初めてのロカテッリは、イタリアの雑誌『ローリング・ストーンズ』のインタビューで、「僕は落ち着いている」と強調している。
 
「10月までの僕は（リオネル・）メッシだったわけじゃない。そして今も、３部クラスの選手になり下がったわけじゃない。僕はまだ大きく向上できることを示さなければいけないんだ」
 
　天国から地獄に突き落とされるような経験をしたロカテッリは、「イタリアではミスばかりが取り上げられ、選手の成長は注目されないと思う。これから良くなっていくことを願うよ」と、イタリア・サッカー界の風習に苦言も呈している。そのうえで、「ひとつ分かったことがある」という
 
「この世界にはバランスがないんだ。ある日はこのチームの未来と言われ、次の日には弱点だと批判される。でも、ミランでプレーしていれば、それも普通のことだ」
 
　謙虚な姿勢は、ピッチの外にも表れている。同誌によると、ロカテッリは公表こそしていないものの、チャリティーなどの社会活動にも参加しているという。ロカテッリは「そのことはあまり話したくない。必要ないことだ」と断ったうえで、このように続けた。
 
「自分は幸運だと思っている。だからやるんだ。自分が受け取った恵みを、他の人たちにも少し贈りたい。とくに困っている子供たちに」
 
　巨大な重圧にずっと晒されている19歳とは思えない落ち着いた口ぶりのロカテッリ。近年、苦戦続きのミランにとって、苦境打破の頼もしい存在に成長していくに違いない。