最年長得点記録達成のアドゥリス、スペイン代表に「新たな議論」を引き起こす

2016年11月14日 豊福晋

ロシアW杯開催時、彼は37歳になっているが、果たして…。

マケドニア戦での偉業達成について、アドゥリスは「この歳で、この場にいられて光栄」と語った。写真は今年6月の親善試合。 (C) Getty Images

 35歳と275日――。
 
 長いスペイン代表の歴史に、新たな記録がまたひとつ加わった。
 
 11月12日、スペイン代表のベテラン、アリツ・アドゥリスが、ロシア・ワールドカップ予選のマケドニア戦でゴールを決めた。スペイン代表の得点者としてこれは、最高齢となる。
 
 これまでに記録を持っていたのは、ホセ・マリア・ペーニャ(35歳225日)で、なんと1930年にまでさかのぼる。90年近く更新されなかった記録を今回、アドゥリスが塗り替えたわけだ。
 
 もう少しで36歳になる彼(誕生日は2月11日)は、今シーズンも抜群のキレを見せている。
 
 ヨーロッパリーグ・グループステージ第4節、ヘンク戦ではひとりで5ゴールを挙げ、アスレティック・ビルバオを5-3の勝利に導いた。「そのうち3点はPKだったから」と本人は謙遜するも、その価値は少しも目減りしない。
 
 年齢を感じない、と言えば嘘になる。運動量は多くはないし、ピッチを走り回る姿を見ることはない。抜群のスピードがあるわけでもない。
 
 それでも、ゴールに背中を向けたポストプレーのしなやかさでは若手の追随を許さないし、シュートを枠に飛ばす技術では、今もスペイン人で一番だろう。マケドニア戦でも、ゴール前でパスを難なく冷静に押し込んだ。ああいう場面でのミスが本当に少ない。
 
 ゴール前で決定機を外し続けるバルセロナのパコ・アルカセルは何を思っただろう。レアル・マドリーのアルバロ・モラタに期待する声は多いが、アドゥリスを見ていると、24歳の彼にはまだ、学ぶことがたくさんあるようにさえ映る。
 
 アドゥリスの招集は、ある議論をも引き起こした。
 
 アドゥリスが呼ばれるのであれば、ダビド・ビジャも呼んだらどうだ?――。
 
 ビジャはアドゥリスより若く(1981年12月3日生まれの34歳)、アメリカ(ニューヨーク・シティFC)でも結果を出している。フレン・ロペテギ監督も「もちろんビジャも候補だ。生で見たし、良いプレーをしている」と語り、可能性を示唆している。
 
 ロシアW杯を見据え、単純に年齢だけを考えるのであれば、アドゥリスではなく、いずれも23歳のパコ・アルカセルやヘセ・ロドリゲス(パリSG)らを招集しただろう。しかしロペテギのなかには、年齢よりも結果という絶対的な優先順位がある。
 
 日本代表で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が35歳のFWを招集するというのはなかなか考えにくい。もちろん、それはそれぞれの監督の考え方であり、好きな選手を呼んでもらって何の問題もない。
 
 これに対してロペテギが示すのは、「きちんと結果を出し、なおかつ好調をキープできるのであれば代表に呼ぶ」という明確で公正なスタンスだ。年齢だけで、現在のパフォーマンスを無視することはない。
 
 アドゥリスとビジャ、どちらにも扉は開かれている。1年半後のW杯開催時、アドゥリスは37歳になっている。さすがに可能性は低いだろう。しかし、彼がロシアで躍動する姿に期待するファンは意外と多いのである。
 
文:豊福 晋
 
【著者プロフィール】
とよふく・しん/1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。
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