【横浜】ボールからも勝利からも目を切らない。パク・ジョンスが受け継ぐ強者の魂

2016年10月10日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

「身体が勝手に動いてあそこ(シュートコース)に走り込んだ」

アデミウソンの決定的なシュートを顔面ブロック。結果的にルヴァンカップから敗退したものの、諦めを知らない姿は胸を打つものがあった。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

[ルヴァンカップ・準決勝第2戦]横浜 1-1 G大阪/10月9日/日産ス
 
 何かに導かれるように、パク・ジョンスは一気にスピードを上げた。視界には、CBとしてコンビを組む中澤がG大阪のアデミウソンに振り切られ、GK榎本までもかわされ掛かっている姿が映っていた。
 
 両チームとも無得点のまま迎えた22分だった。金井貢史が不用意に中に入れたパスをカットされると、間髪入れずに最終ラインの裏を狙っていたアデミウソンに向かって、相手のフィードがピッチを縦断。少し前に出ていたパク・ジョンスと中澤佑二の間にポトリと落ちた。
 
 加速するアデミウソンとの競り合いで中澤が遅れを取る。GKと1対1の場面。さらに跨ぎフェイントで、飛び出した榎本が手玉に取られてしまう。残すは無人のゴールにボールを蹴り込むのみ。
 
 アデミウソンの左足からシュートが放たれた。次の瞬間、精悍な顔つきをした22歳の若者が飛ぶように現われ、顔面でブロック。絶体絶命のシーンを救ってみせた。
 
「シュートコース云々じゃない。なんとかしなきゃいけない、防がなきゃいけないという気持ちだった。身体が勝手に動いてあそこに走り込んだ」
 
 ともすれば諦めが先にきてもおかしくない場面で、パク・ジョンスは最後まで得点を与えないことを信じていた。そして、顔でボールを捉えると、スタジアムは一段と大きな観戦で包まれた。
 
 なぜ、「失点するかも」という覚悟を持たなかったのか。なぜ、身体が勝手に動いたのか。なぜ、その劇的なブロックについて記者に訊かれても淡々と答えられるのか。
 
 1-1の引き分けによる敗退(第1戦は0-0。アウェーゴールの差で横浜は決勝進出を逃した)のすぐ後に浮かんだ問いに、パク・ジョンスは明確な回答を示してくれた。
 
「若いとかベテランとかを別にして、マリノスの選手として試合に出る以上は優勝カップを手にしたい。そういう気持ちですべての試合、すべての大会に臨んでいる」
 
 鹿島、名古屋とともに、J2降格を経験したことのない名門クラブの一員として、リーグ戦完全優勝(2003年)を果たしたこともある強豪クラブの一員として、決して勝利から目を切ることはない。
 
 そんな"強さ"の源は、もしかしたら黄金期を知らないかもしれない22歳にも確実に芽吹いていた。その姿を見ると、スタジアムを去る前の「リーグ戦も天皇杯も残っている。そっちに気持ちを切り替えて、次の目標を目指したい」という言葉の実現を、信じさせられる。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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