「汚れ役」が様になってきた柴崎岳が、またひとつ階段を上ろうとしている

2016年06月28日 内田知宏

セカンドボールへの反応が速くなり、予測・準備をし、ボールホルダーへの寄せも半歩踏み込んだものに。

第1ステージは全17試合にフル出場。ゲームメイクやフィニッシュワークで魅せつつ、今季は守備でうならせる場面も増えた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 第1ステージのホーム開幕、鳥栖戦後のことだった。鹿島の開幕2連勝を見届けた内田篤人(シャルケ)が顔を合わせるや、こう切り出した。
 
「やっぱり(小笠原)満男さんだよね、汚れ役をやっているのは。今は若い選手が"おいしい"ところを持っていっているけど、チームは満男さんで持っている。ただ、若い選手が汚れ役を覚えることができれば、このチームはきっともっと強くなる」
 
 内田が指す「汚れ役」とは、守備で言えば、球際で負けないことや、ピンチを未然に防ぐポジションにいることであり、攻撃では、ここにいてくれたら出し手が楽になるだろうな、という場所に顔を出すことだそうだ。
 
 リーグ3連覇(2007~09年)を果たした時には、小笠原のほか、本山雅志(現・北九州)や内田自身も含め、多くの選手が、汚れ役にも、ヒーローにもなることができた。
 
 内田は、前人未到の3連覇を含め、鹿島がこれまで多くのタイトルを獲得してきた理由に、「汚れ役」の存在を挙げている。「そういう選手がチームに3~4人いれば、そりゃあ負けない」とも言う。
 
 今季の鹿島で、見た目には小さな、しかしチームにとっては大きな変化を遂げようとする選手がいる。柴崎岳だ。
 
 昨年の秋以降、日本代表から遠ざかっていることもあり、停滞しているイメージがあるかもしれない。実際、シーズン前のキャンプ直後、急性虫垂炎にかかり、出遅れた。序盤はコンディション面に不安を残していた。試合ごとの好不調の波も大きかったように映った。
 
 ただ、調子を取り戻した5月以降は、チームへの貢献度が高まった。長い距離を走ってゴール前に顔を出す持ち味のプレーも増した。
 
 それ以上に目についたのが、守備である。セカンドボールへの反応が速くなった。明らかに予測・準備をしているのが分かる。ボールホルダーへの寄せも、1歩とまではいかないものの、半歩踏み込んだものになった。
 
 これまでは攻撃の組み立てや、ラストパスのアイデア、その精度で存在感を発揮してきた選手だったが、今季は守備でうならせる場面が増えている。
 
 能力の高さから「天才」と表現されることも多いが、鹿島での日々を見ていると、地道な努力家にほかならない。「課題を課していないと満たされない」という言葉通り、プロ入り後は、身体の増強、ゴールに絡むこと、判断スピードの向上など、優先順位をつけ、一つひとつ改善していくのが柴崎のスタイルだ。実際にそうやって階段を上ってきた。
 
 今回、「汚れ役」という課題の順番が回ってきたのだろうか。第1ステージ優勝を決めた福岡戦後、柴崎に問うた。質問に「うん、うん」とうなずいた後、いたずらっぽく笑いながら「それ、適当に書いておいていいから。あとは任せるよ」とテレビの生出演へと向かっていった。
 
「サポーターが喜んでくれることが嬉しかった。ただ、選手はまだ先がある。(第1、第2ステージ優勝という)完全制覇は、僕たちにしかない権利。そこを目指して、第2ステージはゼロからスタートするつもりで臨みたい。チームとしても、個人としても、もっと質を高めて」
 
「サッカーで勝つ方法を知りたかったから」と鹿島に加入してから6年目。柴崎が鹿島の神髄に触れ、またひとつ階段を上ろうとしている。
 
取材・文:内田知宏
 
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事