【札幌】今年は違う、北の雄を支える主将・宮澤裕樹の矜持

2016年05月13日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

クラブ一筋9年目、背番号10はすべてを懸けて戦う。

得点はほしい。だが、なによりも優先されるべきはチームの勝利。宮沢は「やりたいサッカーでできれば、自然とゴール前に進出する回数は増える」と焦りはない。(C) J.LEAGUE PHOTOS

 8位、10位、10位。2012年にJ2へ降格して以降の3年間は、優勝争いや自動昇格圏争いどころか、J1昇格プレーオフにさえ進めずにいた。だが、今季は様子が違う。12節を終えた時点で7勝2分2敗(熊本地震の影響で1試合未消化)で暫定3位。未消化ゲームで勝点3を加えられれば、C大阪(2位)と町田(1位)を抑えて堂々の首位の躍り出るのだ。

 その札幌で攻守に、そしてピッチ内外で中心を担うのが宮澤裕樹だ。北海道出身でプロ生活は札幌一筋9年目。10番を背負い、今季から主将の重責を担うボランチ。クラブからはもちろん、サポーターから多大な期待を寄せられている。

 宮澤は決して声を張り上げてチームを牽引するタイプではない。「日々の練習も試合も、常に100パーセントの力で頑張るだけ。背中で引っ張れれば……」と自身も語っている。それでも「僕は在籍年数も長いし、ベテランと若手の橋渡しにならなければいけない」と、重責を負う強い覚悟がある。

 元々はFWでプレーしており、昨季は39試合・5得点を挙げた。だが、今季は10試合・0得点。宮澤は「もっと前線に顔を出す回数を増やしたい。得点できれば、もっと波に乗れると思う」とゴールを渇望している。

 それでも、第一はチームの勝利。豊富な運動量でピッチを所狭しと走り回り、パスコースを作るポジショニングを取り、守備になれば危険地帯を埋めながらインターセプトを狙う。重心を前に移し過ぎることはない。話を聞くなかで、「バランスを考えながら」という言葉が何度も出てきた。我を殺すのは、今季こそJ1へと上がって12年の悔しさを晴らすためだ。

 都倉賢のように、最前線で自信をアピールするわけではない。稲本潤一や小野伸二のように、その名前だけで相手から畏怖を受けるわけではない。しかし、宮澤は札幌にとってなくてはならないピースだ。

 試合を観戦する機会があるなら、ぜひ注目してほしい。たとえ目立たなくとも、彼がいかに気の利いたポジショニングでチームを支えているかを。左腕に信頼の証を巻く男は、そのすべてを懸けて、札幌の勝利のためだけに戦っているのだ。

取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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