【玉乃淳の視点】ジュビロとグランパスの若き指揮官、それぞれに足りないものとは?

2016年02月29日 玉乃 淳

小倉監督には“バリエーション”、名波監督には“決定力”が必要。

初采配で初勝利を収めた小倉監督は、現役時代さながらのマインドで勝点3をもぎ取った。(C)Getty Images

 どんなサッカーをするのか?
 
 サッカーファンであれば誰もが興味津々のはずで、多分に漏れず僕もそうでした。現役時代のカリスマ性をそのままに、引退後も有り余るタレント力で日本サッカー界のご意見番として活躍していたふたりの対決となれば、華麗で理想的なサッカーを見せてくれるのではないかと期待したファンも少なくないはずです。
 
 名波監督のジュビロ対小倉監督のグランパスです。
 
 もっとも、楽しみにはしていましたが、"現時点では両クラブともJ1では戦えない"とも思っていました。
 
 ホームで開幕を迎えるジュビロは昨季、J2の戦い方を熟知したうえで、左サイドのアダイウトンと絶対的エースであるジェイの得点力で昇格を決めてみせます。ただ今オフの補強状況はJ1で中上位を狙うには十分とは言い難いものでした。
 
 一方のグランパスは、監督未経験者の小倉氏に"GM兼"という肩書きも与え、近年不振にあえぐチームの再建をかつてのクラブのアイドルに託しました。インパクトはありますが話題先行の印象がぬぐえず、「名古屋だけには負けられない」と対戦する全クラブが思うのではないかというぐらいの"珍人事"だったと思います。
 
 そんなふたりが対峙したゲームでは、開幕戦ということもあり、両チームとも完成度はまだ低く、3割程度の力しか出せていなかったと見ています。そんななかで、1-0というスコアでグランパスが勝利したこの試合の勝敗を分けたものはなんだったのか。
 
 それは、得点へのこだわり、でしょう。
 
 ジュビロを率いて3シーズン目に入り、監督としてのキャリアでは上の名波監督は、ゴールまでのプロセスに執拗にこだわっていた様子でした。カッコ良く、華麗にホーム開幕戦を飾ろうという理想を掲げたがゆえに、誰がどのようにして得点するのかという課題を最後まで残してしまったように感じます。
 
 それに対し、小倉監督は得点することに神経を研ぎ澄ませていた現役時代さながらのマインドで、チームを勝利に導いたと思えるのです。シモビッチへの単純なロングボールや「5人目が連動する動き」が数度しか見られなかった点は、「単調」と揶揄されてもおかしくない戦い方ではありましたが、間違いなく「シモビッチという起点から点を取る」という明確な形がチームには浸透していました。
 
 新人監督のストライカーとしての現役時代のプレースタイルとマインドで飾った開幕戦勝利ですが、いわば名選手だった現役時代の貯金でもぎ取った結果と言えるかもしれません。でも、それだけで長いシーズンを戦っていくわけにはいかないでしょうから、今後は必ず名波監督が現役時代に見せていたような"攻撃のバリエーション"が必要になってくるのではないでしょうか。
 
 反対に名波監督には、現役時代の小倉監督のような"決定力"を意識した采配も見せてほしい。開幕戦を欠場したジェイにどのような形で得点させるかという明確な課題をいかに解決するか。その手腕に注目したい。
 
 次節、ジュビロはレッズと、グランパスはサンフレッチェとの対戦を控えています。すでに触れたように、前者は戦力的な不安、後者は監督の経験不足という点で、今後は厳しい戦いが待ち受けているでしょう。これから経験を積み上げていくであろう若手監督の彼らを、残りの試合で1勝もできないほどの状況で迎えることこそが、本来Jリーグにとっての健全な姿であるのではないかと思っています。
 
 ただ、その計り知れない高い壁を乗り越えて、ふたりの名監督が誕生する事を心から願う開幕戦でありました。
 
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