【連載】月刊マスコット批評⑦「トッキー」――あえてサルを選んだ英断

2016年01月10日 宇都宮徹壱

耳を活かした遊び心あふれるアイデアにも大いに感心。

干支をマスコットに採用しているクラブは、以外にも少ない。このトッキーを含めて、全53クラブ中、わずか6クラブだ。写真:宇都宮徹壱

トッキー(栃木SC)
 
■トッキーの評価(5段階)
・愛され度:3.0
・ご当地度:4.5
・パーソナリティ:3.5
・オリジナリティ:4.5
・ストーリー性:3.0
・発展性:3.5
 
 漫画家の友人からいただいた寒中見舞いハガキに、栃木SCのマスコット『トッキー』が描かれていた。そうか、今年はトッキーの年なのか。それなのに来季はJ3で……という話は正月早々なしにしておこう。
 
 次に私が思ったのは、そういえば干支の動物をモティーフにしているマスコットは意外と少ないな、ということであった。子(ネズミ=なし)、丑(ウシ=神戸)、寅(トラ=なし)、卯(ウサギ=なし)、辰(龍=水戸)、巳(ヘビ=なし)、午(ウマ=熊本)、未(ヒツジ=なし)、申(サル=栃木)、酉(ニワトリ=なし)、戌(犬=千葉、甲府)、亥(イノシシ=なし)。酉については、鳥類のマスコットは多いものの、意外にもニワトリはない(海外ではフランス代表やリーベル・プレートなどの例があるが)。
 
 来季のJ1からJ3までのクラブは、セカンドチームを除くと53クラブ。このうち、マスコットを持っていないのは9クラブである(「非公式マスコット」となっている岡山、国体マスコットを流用している岐阜を含まず)。
 
 実は昨年、某クラブからオファーをいただき、新しいマスコットデザインの審査に関わらせていただく機会があった。そこでブタをモティーフにしたデザインを強く推したのだが、最終的には別の動物が選ばれたようだ。
 
 これだけJクラブが増えて、それぞれがマスコットを持つようになると、モティーフのバッティングは避けられない。その意味でもブタはオリジナリティがあるし、ブラジルの名門・パルメイラスもサポーターから親しみを込めて「Porco=ブタ」と呼ばれている。なかなか悪くないと思ったのだが……。
 
 前回取り上げた大分のニータン(モティーフはカメ)もそうだが、他クラブが手を出さないモティーフを選ぶというのは、クラブにとって、それなりの勇気と覚悟を要する。その意味で(日光猿軍団へのオマージュがあったとはいえ)、あえてサルを選んだ栃木の英断に私は敬意を表したい。
 
 サルという動物は、人間と同じ霊長目に属しているだけに「かわいい」と感じる一方で、どこか見下してしまう部分があることも否めない。
 
 昨年、大分の動物園が生まれたメスのサルに「シャルロット」と命名したところ、英国で誕生した王女と同名だったことから「サルに王女の名前を付けるとは不敬なり!」と一騒動になったことがあった。これなどもサルへのネガティブなイメージを示す顕著な例と言えるだろう(結局、シャルロットは改名せずに済んだ)。
 
 幸運なことに私は、トッキーがお披露目になった試合を取材している。2011年11月26日にグリーンスタジアムで行なわれた対大分戦で、トッキーは栃木のレプリカを着た子どもたちと登場し、見事なアジリティを披露しながら会場を一周して存在感をアピールしていた。
 
 事前にビジュアルデザインが公表されていたこともあり、サルが採用されたことに抵抗感を示すファンはほとんどいなかったと記憶する。それによく見ると、左右の耳の形が「S」と「C」になっていて、サルの耳を活かした遊び心あふれるアイデアにも大いに感心した。
 
 干支に話を戻すと、ウサギとかトラとかニワトリとかイノシシとか、モティーフとして魅力的な動物はまだ残っている。マスコットを持っていないクラブ関係者の皆さん、早い者勝ちですよ!


宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
 
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