シャイなタケは余韻に浸ることなく小走りでピッチを後にした
そのパスを受けたアレクサンダー・セルロトは疲れ切っていてCKをゲットするのが精一杯。イマノル・アルグアシル監督は交代のタイミングと判断し、第4審判が背番号14の表示されたボードを掲げた。スタジアムの4分の3の観客がスタンディングオベレーションになり、「クボ!クボ!」と即興的に名前を連呼した。シャイなタケは、余韻に浸ることなく小走りでピッチを後にした。
タケが開幕からわずか1か月で“チュリ・ウルディン”のファンの心を鷲掴みにしたことを示した瞬間だった。クオリティ、プレーレベル、競争力、インテリジェンス、犠牲心、闘争心を兼ね備えたアノエタのニュースターはこれからもいくつもの歓喜をファンに届けることだろう。
アノエタ(ホームスタジアムの旧称)では試合のたびに、タケの名前と背番号14の入ったユニホームを来たファンの数が増えている。特に子供たちの間で人気はうなぎ上りだ。校庭でサッカーゲームを始める前に恒例の各自がお気に入りの選手を名乗る際に、今最も好まれているのがタケだ。日本人という物珍しさもあるが、もちろん大前提として開幕後の活躍がある。
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その中でもエスパニョール戦でのパフォーマンスは入団以来、最もコンプリートなものだった。アルグアシル監督は2トップの一角としてスタメンで起用。ポジションは相方のセルロトの左寄りに配した。「いいプレーができたと思う。合格点を付けられる」。タケは試合後に謙遜したが、少なくとも「優」に値する内容だった。
立ち上がりから輝きを放った。14分、挨拶代わりに相手のクリアボールをダイレクトで叩くも、相手GKアルバロ・フェルナンデスがキャッチ。その続けざま、ホン・パチェコの高精度のロングパスを収めて、右サイドの敵陣深くえぐった後だった。エスパニョールのバックパスに反応し、猛然とプレスを掛けに行くと、アルバロ・フェルナンデスのトラップが甘くなった一瞬の隙を逃さずボールをつつき、走り込んだセルロトが無人のゴールに押し込んだ。
サッカーに仮にテニスのようなアンフォーストエラーがあったとしても、この場面でのアルバロ・フェルナンデスのプレーはそれに該当するとは思えない。正確にボールをコントロールできなかったのは、タケの揺るぎない信念と不屈の闘志がその状況を引き起こしたからだ。
タケは試合後、このシーンをこう述懐している。「同じようなシーンに出くわしたプレシーズンマッチのビルバオ戦ではプレスをかけに行かなかった。その時のことが脳裏をよぎり、仕掛ければ、トラップミスを誘えるかもしれないとピンときた。僕は倒れていたから最初はPKと思って、キッカーを志願する心構えもできていた。でもみんながセンターサークルに向かって戻って行ったから、ゴールだと分かった」
直後にCKから失点を喫したが、タケに責任を問うのは酷だろう。エドゥ・エスポーシトをフリーにさせてしまったことが直接の原因で、責任を背負わなければならないのは、その得点者へのアプローチが遅れたゴール前に構えていた選手たちだ。