”戦えない”レッテルを貼られた増嶋竜也が、「今となっては良かった」と語る挫折とは

カテゴリ:Jリーグ

飯尾篤史

2017年05月26日

ライバルの加入、柏での飛躍へ。

京都で成長を遂げ、柏に移籍後はJ1、ナビスコカップ、天皇杯と、三大タイトルを獲得。今シーズンからはレンタルで仙台に加入した。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 08年シーズンには、さらにDFとしての幅をいっそう広げることになる。
 
 きっかけは、同じ年で、同じポジションのライバル、水本裕貴の加入だった。
 
 U-23日本代表の主力だった水本は、オリンピックイヤーのこの年、ジェフ千葉からガンバ大阪に移籍した。
 
 ところが、G大阪の守備戦術に慣れることができず、シーズン途中で京都に移籍してきたのである。
 
 シーズン中の補強は、既存の守備陣に監督が満足していない証だろう。少なくとも増嶋は、そう受け取った。
 
「ちょっと待ってよ、って思いました。なんで?って。実際に俺、久さんに言いましたから。『なんで獲るんですか。必要ないでしょ』って」
 
 ここまで京都の守備陣を支えてきたという自負が、増嶋にはあった。だが、あったのは自負だけではなかった。
 
「ポジションを奪われるんじゃないか、記者に自分とミズを比べられるんじゃないかって、不安だったんです」

 だが、水本の加入によって増嶋の出場機会が減ったわけではなかった。確かにCBの座は水本に譲ったが、SBにコン バートされ、タッチライン際を激しい形相で上下動するようになるのだ。

「もうプライドなんてなかった。生き残ることが先決でしたから、出られるならどこでもよかった。おかげでプレーの幅が広がったし、SBの楽しさも分かったから、久さんには感謝しています。逆に、よく僕にSBをやらせたなって」

 SBでのプレーが板につく頃、増嶋からスマートな印象は消え失せていた。
 
 そして、守備のスペシャリストとして11年に加入した柏レイソルで、重ねてきた努力が大きく花開く。
 
 J1、ナビスコカップ、天皇杯と、三大タイトルを獲得すると、ACLにも出場し、国際大会のピッチに立つのだ。
 
「選手としての価値を高めてくれたのはレイソル時代だけど、それも甲府、京都時代があったから。当時は辛いことばかりで、プライドもズタズタになったけど、今となっては良かったのかも。挫折があって、這い上がって、っていうのがプレーに出ているし、あのまま順風満帆だったら、息も短かったのかなって」

 かつては悔しくて見ることのできなかった同世代の代表でのプレーも、今ではしっかり見られるという。

「北京五輪世代のみんな、頑張ってますよね。年齢的に代表では踏ん張り時。(本田)圭佑も、もがいているしね。本当に頑張ってほしい。彼らにはいつも刺激を受けているし、応援しています」

 そんな増嶋にとって3月、モチベーションを高める出来事があった。FC東京時代のチームメイトで、2歳年上の今野泰幸の代表復帰である。

「今ちゃんを見ていると、結果を出せば何歳でも選ばれるんだなって。すごく励みになりますね。これまで1回もA代表には入ってないけど、まだまだ代表、諦めないでやりたいなって思います」

 高校サッカー界きってのスター選手も、もう32歳。「20代前半の頃、この年までできるとは思わなかった」という男は今、自身5つ目のクラブで、もうひと花咲かせるつもりだ。
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