最高の勝利の形――自死寸前まで追い詰められた重症の青年を快方へ向かわせたものとは

カテゴリ:特集

加部 究

2017年05月22日

怒声や誹謗がひとつもなく、心地よく真剣味溢れる時間が流れていく。

「地域生活支援センターのスポーツプログラムに参加しました。卓球、バスケット、ドッジボールがメインだったんですが、ある時FC東京の熱烈ファンが権田(修一)のユニホーム姿で現われた。彼の意を汲み、みんなでボールを蹴ることになったんです」
 
 アルバイトも経験し、少しずつ自信が芽生えてきた宗像くんは「これなら健常者と一緒に活動ができるのでは」と、友人たちとメンバーを募りフットサルクラブを起ち上げるのだ。
 
「一時はメンバーからの相談で、メールが途切れず電話も鳴り止まないような状況になりました。でも僕も病気について勉強してアドバイスもするようになり、逆に凄く成長させてもらいました。カウンセラーも、ハイハイしか言わなかったボクのあまりの変わりぶりに驚いています」
 
 痛恨の出来事がある。職に就くことを熱望していた同い歳のチームメイトが、願い叶わずに命を断った。
「何も力になれなかった……。だから将来はスポーツクラブを創り、そういう人たちの働く場を確保したい。セミナーに参加したら、障害者がいるとスポンサーはつかない、と心が折れることを言われましたけどね」
 
 それでもリーダーは大きな夢を育み、笑みを湛えて前進する。フットサルが、人の垣根を取り払い、思い切り喜怒哀楽を引き出し、それが自然治癒力を誘発する。スポーツの最高の勝利の形かもしれない。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年4月27日号「加部究のフットボール見聞録 第493回」より転載。
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