武藤と並んでちょっと止められない次元に。
番狂わせが起きるかもしれない――。
そんな期待を抱いて平塚まで出かけたが、そうは問屋が卸してくれなかった。
昨季、J2を独走し、勝点101を積み上げた湘南ベルマーレと、三冠王者ガンバ大阪の一戦は、2-0で後者に凱歌が上がった。大差はつかなかったが、G大阪の貫録勝ちといってもよかった。
【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・6節
立ち上がりは湘南がG大阪を押し込む、面白い展開になった。7、8人が敵陣に攻め上がり、ボールを失っても狭い局面で激しく敵を潰しにかかる。かわされてもかわされても、しつこくボールに絡み、ふたりくらい多くピッチにいるように見えたほどだ。
並のチームなら、これで慌てていたかもしれない。だがG大阪は王者らしく、しっかりと湘南の攻めを受け止めた。しっかりと受け止め、「さあ、そろそろ行きますよ」というかのように攻めに出た。
自陣を固めてからのカウンター、さらに湘南の出足を巧みにいなすかのようにパスをつないで押し返していく。26分に決まった宇佐美の先制点は、まさしく「仕留めた」というゴールだった。
宇佐美の鋭いターンから右サイドで2対1の局面を作ってCKを獲得すると、そこから遠藤がショートパスの応酬から不意にテンポを上げて、湘南守備陣を混乱させる。
遠藤のループパスを丹羽が頭で落としたところを米倉がシュート。これは湘南GK秋元に阻まれたが、こぼれ球を抜け目なく狙っていた宇佐美が豪快に押し込んだ。
個人技の高さと駆け引きの上手さによって、あっという間にゴールを陥れる。三冠王者のしたたかさが凝縮されたゴールだった。
後半も危なげがなかった。最終ラインは素早い帰陣でスペースを消し、その前の中盤の選手たちは今野を中心に徹底的に縦の進路をふさぐことで、湘南最大の武器である出足を食い止めてしまった。
4連勝であっという間に2位に浮上したG大阪はいま、攻守の両輪が理想的に稼働している。守りは3節から復帰した今野。攻めの立役者はいうまでもなく、7ゴールで得点ランキングの首位を走る宇佐美だ。いまの彼は、FC東京の武藤と並んでちょっと止められない次元にいる。
29分には自陣から3人に囲まれながら独走し、際どいシュートを放ったが、敵は止めることも遅らせることもできない圧巻のドリブルだった。
自信に満ち溢れた宇佐美の楽しそうなプレーを見ていて、「ピベ」という言葉が頭に浮かんだ。それはアルゼンチンの人々がドリブラーに敬意と親しみを込めた呼ぶ言葉。少年、小僧といったニュアンスがある。あのマラドーナも、ピベと呼ばれていた。
上手いけれど怖さがなかった宇佐美が、試合を決める頼もしいドリブラーに化けたのは、周りに能力を認められ、期待されるようになったというのが大きいと思う。
ハリルホジッチ新監督に抜擢されて、悪い流れに陥った代表チームの新エースとして世間に取り上げられた。そしてゴールを決めることによって期待はさらに高まり、試合のたびにその期待に応えながら大きくなっていく宇佐美がいる。
先行する期待を必死に追いかけていたら、気がつけばその前を走っていた、という感じかもしれない。世間の期待が潜在能力を引き出していることは間違いないだろう。
湘南戦のG大阪は、決して攻撃的な試合運びをしたわけではなかった。むしろ、手堅く守って限られたチャンスをしっかりと仕留めて勝利を手にした。
無理に攻めなくてもいいのは、単独でもゴールを陥れるピベがいるからだ。いまの宇佐美は、前を向いたら手がつけられない。厄介なことに、狭いところでもすぐにターンしてしまう。
もっともいまの宇佐美は、まだJリーグのピベに過ぎない。世界に打って出ても通用すると認めさせるには、まずはアジアで結果を残すことだ。今週水曜日には、敵地で広州富力との大一番が控えている。
三冠王者を敗退の危機から救い出すことができるか、真価を問われる一戦だ。
取材・文:熊崎敬
そんな期待を抱いて平塚まで出かけたが、そうは問屋が卸してくれなかった。
昨季、J2を独走し、勝点101を積み上げた湘南ベルマーレと、三冠王者ガンバ大阪の一戦は、2-0で後者に凱歌が上がった。大差はつかなかったが、G大阪の貫録勝ちといってもよかった。
【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・6節
立ち上がりは湘南がG大阪を押し込む、面白い展開になった。7、8人が敵陣に攻め上がり、ボールを失っても狭い局面で激しく敵を潰しにかかる。かわされてもかわされても、しつこくボールに絡み、ふたりくらい多くピッチにいるように見えたほどだ。
並のチームなら、これで慌てていたかもしれない。だがG大阪は王者らしく、しっかりと湘南の攻めを受け止めた。しっかりと受け止め、「さあ、そろそろ行きますよ」というかのように攻めに出た。
自陣を固めてからのカウンター、さらに湘南の出足を巧みにいなすかのようにパスをつないで押し返していく。26分に決まった宇佐美の先制点は、まさしく「仕留めた」というゴールだった。
宇佐美の鋭いターンから右サイドで2対1の局面を作ってCKを獲得すると、そこから遠藤がショートパスの応酬から不意にテンポを上げて、湘南守備陣を混乱させる。
遠藤のループパスを丹羽が頭で落としたところを米倉がシュート。これは湘南GK秋元に阻まれたが、こぼれ球を抜け目なく狙っていた宇佐美が豪快に押し込んだ。
個人技の高さと駆け引きの上手さによって、あっという間にゴールを陥れる。三冠王者のしたたかさが凝縮されたゴールだった。
後半も危なげがなかった。最終ラインは素早い帰陣でスペースを消し、その前の中盤の選手たちは今野を中心に徹底的に縦の進路をふさぐことで、湘南最大の武器である出足を食い止めてしまった。
4連勝であっという間に2位に浮上したG大阪はいま、攻守の両輪が理想的に稼働している。守りは3節から復帰した今野。攻めの立役者はいうまでもなく、7ゴールで得点ランキングの首位を走る宇佐美だ。いまの彼は、FC東京の武藤と並んでちょっと止められない次元にいる。
29分には自陣から3人に囲まれながら独走し、際どいシュートを放ったが、敵は止めることも遅らせることもできない圧巻のドリブルだった。
自信に満ち溢れた宇佐美の楽しそうなプレーを見ていて、「ピベ」という言葉が頭に浮かんだ。それはアルゼンチンの人々がドリブラーに敬意と親しみを込めた呼ぶ言葉。少年、小僧といったニュアンスがある。あのマラドーナも、ピベと呼ばれていた。
上手いけれど怖さがなかった宇佐美が、試合を決める頼もしいドリブラーに化けたのは、周りに能力を認められ、期待されるようになったというのが大きいと思う。
ハリルホジッチ新監督に抜擢されて、悪い流れに陥った代表チームの新エースとして世間に取り上げられた。そしてゴールを決めることによって期待はさらに高まり、試合のたびにその期待に応えながら大きくなっていく宇佐美がいる。
先行する期待を必死に追いかけていたら、気がつけばその前を走っていた、という感じかもしれない。世間の期待が潜在能力を引き出していることは間違いないだろう。
湘南戦のG大阪は、決して攻撃的な試合運びをしたわけではなかった。むしろ、手堅く守って限られたチャンスをしっかりと仕留めて勝利を手にした。
無理に攻めなくてもいいのは、単独でもゴールを陥れるピベがいるからだ。いまの宇佐美は、前を向いたら手がつけられない。厄介なことに、狭いところでもすぐにターンしてしまう。
もっともいまの宇佐美は、まだJリーグのピベに過ぎない。世界に打って出ても通用すると認めさせるには、まずはアジアで結果を残すことだ。今週水曜日には、敵地で広州富力との大一番が控えている。
三冠王者を敗退の危機から救い出すことができるか、真価を問われる一戦だ。
取材・文:熊崎敬