【番記者通信】物言わぬ大切な隣人とのストーリー|チェルシー

カテゴリ:メガクラブ

ダン・レビーン

2014年03月19日

数千人のファンが敷地を通過し、場内アナウンスが響き渡る。

このスタンフォード・ブリッジに隣接するブロンプトン・セメタリーは、チェルシーとは切っても切れない間柄の大切な“隣人”だ。 (C) Getty Images

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 本拠地スタンフォード・ブリッジの近隣“住民”で、クラブの歴史、つまり109年もの長きに渡って欠かせない存在として関わってきたグループがある。数千人にも上るその住民はつねに静寂を守り、今後もそれは変わらない。そんな彼らについての問題を、皆さんはご存じだろうか。

 ブロンプトン・セメタリー。1840年に開場したこの墓地は、ロンドンに点在する7つの大型墓地のひとつで、チェルシーとは切っても切れない関係にあるのだ。毎週試合前に数千人のファンが敷地を通過して、ザ・ブリッジ(スタンフォード・ブリッジの俗称)へと足を運ぶ。当然ながら、先発メンバー発表などの場内アナウンスは墓地にも響き渡る。

 ブロンプトンは数多くの著名人が永眠することでも有名だ。例えば、20世紀初頭の女性活動家で、女性の選挙権獲得に多大な貢献を果たしたエメリーン・パンクハーストの墓は、19世紀の医師でコレラと闘ったジョン・スノウのそれの目と鼻の先にある。チェルシーを創設したミアーズ一族の人間も、ここに眠っている。

 この墓地は、物言わぬ抗議者でもある。「NO」を突き付けてきたのは、ザ・ブリッジの拡張計画に対してだ。前オーナーのケン・ベイツの時代から、この堅固な緑の一帯が、スタジアムの東側への拡張プランをずっと阻んできたのである。

 一部の墓の周囲に頑丈な屋台骨を築き、その上にグラウンドを載せるというチェルシーが提示した大胆なプランは、「ブロンプトン・セメタリーを守る会」の猛反発にあって即却下された。ちなみにこの会は、重要な歴史と意義を持つ、この閑静で神聖な墓地を守るために結成され、クラブが提出する計画をことごとくはね返してきた。

 墓地には、また別の顔もあった。1960年代から80年代にかけて、同性愛者たちの逢引きの場として有名だった。そのため、ライバルチームのファンから、チェルシーは「レントボーイズ(男娼の意)」などと揶揄されたりした。

 近年のブロンプトン・セメタリーは、残念ながら管理が行き届かず、汚くて危ない場所として定着していた。敷地内の記念碑のいくつかは損壊し、墓地の周囲は草木が鬱蒼と生い茂る。チェルシー地区に詳しい歴史家で、ガイドツアーを催行するリック・グランビル氏は、草木に覆い隠されてしまった墓石がいくつもあると嘆いていた。

 加えて、一部のサッカーファン(とくにアウェーサポーター)が落書きをしたり、もっと酷いと墓石に小便をかける輩までいたりして、ブロンプトンは荒れていった。

 そこに立ち上がったのが、設立されたばかりのチェルシー・サポーター・トラストの有志たちだ。元々自治体も300万ポンド(約4億8000万円)の補助金を捻出して、ビクトリア王朝時代から存在するこの墓地の修復を計画していた。そこに加わる形で、現在彼らは試合当日の午前中に墓地の清掃とガーデニング、さらに簡単な修復作業を実行するプランを立て、同志を募っている。公的機関の介入と一般市民の協力で、今後墓地は以前のような素晴らしい姿を取り戻すはずだ。私自身も週に一度は通るのだが、徐々に変化しているのが分かる。

 一時はこの地をなんとか強奪しようと企てていたチェルシーも、いまはその態度を改め、住民とともに美しい景観を取り戻すために、積極的に協力している。社会と時代が変わり、同性愛者たちも以前のように密会する必要性がなくなり、代わりに見かけるのは、ひどく人間慣れして餌を求める、生意気だが愛くるしいリスたちだ。

 1世紀以上の時を経て、クラブとサポーターたちは、言葉を発することのない隣人たちの持つストーリー(歴史)の重要性に、改めて気づいたようだ。

【記者】
Dan LEVENE|Fulham Chronicle
ダン・レビーン/フルアム・クロニクル
チェルシーのお膝元、ロンドン・フルアム地区で編集・発行されている正真正銘の地元紙『フルアム・クロニクル』のチェルシー番。親子三代に渡る熱狂的なチェルシーファンという筋金入りで、厳しさのなかにも愛ある筆致が好評だ。

【翻訳】
松澤浩三
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