【山形】「準優勝」の悔しさを携えてJ1の舞台へ|山田拓巳

カテゴリ:Jリーグ

頼野亜唯子

2014年12月14日

溢れる涙を抑えることができなかった。

J1王者に力の差を見せつけられた準優勝に、「また一から鍛えていきたい」と山田はさらなる成長を誓った。 (C) SOCCER DIGEST

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 リーグ終盤からドラマチックな勝利を重ねてJ1昇格を手に入れ、勢いを持って天皇杯決勝の大舞台に登場したモンテディオ山形。J1覇者を向こうに回してのジャイアントキリングを夢見た最後の冒険は、勇敢な戦いも身を結ばず、1−3で敗れた。
 
 試合終了の瞬間、右ウイングバックの山田拓巳は膝を折り、ピッチに視線を落とした。やがてゆっくりと立ち上がりはしたが、表彰台に昇り準優勝メダルをかけてもらう時も、優勝チームが壇上で凱歌をあげる様を見上げる間も、その端正な顔からは表情が消えていた。
 
 放心したように、視線が宙を漂う。そして耐えきれなくなったように、顔を歪めた。溢れる涙を抑えることができなかった。
 
「90分、もたなかった」
 
 ミックスゾーンに現われた山田は、山形の他の選手たちが悔しさに区切りをつけたように振る舞っていたのに対し、硬い表情のままだった。大事な試合で最後まで走りきることのできなかった自分の力不足を、絞り出すような言葉で悔いた。
 
 前半で0−2とされたものの、62分にロメロ・フランクのゴールで1点差。その後も果敢に攻め、同点弾が生まれてもおかしくない決定機も作っていた。もう少し、あともうひと頑張りで、王者のゴールを再びこじ開けられるのではないか――そんな80分過ぎ、山田の左足が突然、悲鳴をあげた。
 
 痙攣して動かない。担架でタッチラインの外に運び出され、手当てを受けている間に、宇佐美のシュートが山形のゴールに突き刺さった。
 
 山田は、市立船橋高から山形に加入して7年目の生え抜きである。高卒の同期に太田徹郎(柏)、廣瀬智靖(徳島)がおり、常に競い合って成長してきた。1年目にチームはJ1に昇格したが、山田に1年目の出場はなく、貢献できたとは思っていない。J1での3年間も出場は数試合。そしてクラブは再びJ2に舞い戻る。
 
 この頃から、山田ら3人の口から「いつまでも若手のつもりじゃいけない。俺たちがチームの中心にならないと」という、責任感を表に出す発言が折に触れて聞かれるようになった。
 
 しかし、3人はなかなか定位置を確保しきれず、昨季からは太田が柏へ、今季は廣瀬が徳島へと移籍していった。苦楽を共にしてきた同期2人のJ1クラブへの移籍には、複雑な思いもあったのではないか。
 
 山田がコンスタントに試合に出るようになったのは、6年目の昨季からだ。奥野監督の下、運動量豊富な右SBとして33試合に出場。リーグ戦だけで言えばプロ入りして初の二桁試合出場だった。
 
 だが、本当にブレイクしたと言えるのは今季だろう。チームの転機となった3バックへのシステム変更でウイングバックを任されると、持ち味の攻撃力が輝き出す。「サイドバックよりきつい」と言いながら、チーム一、二を争う心肺能力を生かして上下動を繰り返した。
 
 そしてなにより、課題だったクロスの精度が飛躍的に上がり、得点に絡むことが増えた。41節磐田戦、プレーオフ準決勝磐田戦ではいずれもディエゴの得点をアシスト。チームを昇格へと押し上げる重要な仕事をやってのけた。天皇杯でも、準決勝・千葉戦での決勝ゴールは記憶に新しい。
 
 今季の山形は、天皇杯の躍進やプレーオフ出場で、普段はそれほど山形の試合を見ていないメディア陣の目に触れることも多かった。そうした人たちから「あの6番、いいね」「ちょっと見ない間に山田はすごく良くなった」という声を聞いたのも一度や二度ではない。それほどに、山田の今季の成長は著しい。
 
 だがそれでも、結局のところ、G大阪には叶わなかった。
 
「J1のレベルの高いチームが相手だと、まだまだ自分は通用しないんだと思った。また一から鍛えていきたい」
 
 硬い表情のままで、山田は言った。ヘコんでいるのではない。悔しさが溢れて止まらないのだ。できることならすぐにでも、次のトレーニングを開始したいと思っているのではないか。そんな横顔だった。
 
 すぐには無理だが、短いオフはやがて明ける。石﨑監督も「来年からの練習はもっと覚悟をもって練習に出て来てもらわないと」と、手ぐすね引いて待っている。
 
 今度こそ自らの手で勝ち取ったJ1の舞台。「準優勝」の悔しさを胸に、さらに加速をつけて成長する背番号6を、きっと見せてくれる。そう信じている。
 
取材・文:頼野亜唯子
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