見えないからこその工夫が競技としての醍醐味だ。
11月16日から24日まで東京で世界選手権が開催されているブラインドサッカー。急速に広まりつつあるこの競技の現状をリポートする。
取材・文・写真:清水英斗(サッカーライター)
写真協力:日本ブラインドサッカー協会
※週刊サッカーダイジェスト11.25号(11月11日発売号)より
――◆――◆――
「見えない。そんだけ。」
11月16日、国立代々木競技場フットサルコートで開幕したブラインドサッカー世界選手権2014。そのポスターに飾られたキャッチコピーが目を引く。
それだけ、ではなく「そんだけ」。あえて選択したであろう、ぶっきらぼうな口語表現には、「信じないかもしれないが、目が見えなくても俺たちはサッカーができるんだぜ!」という強い信念が感じられる。
B1(全盲カテゴリー)において、視覚障がい者である選手たちは、視力の差をなくすためにフィールドプレーヤー全員がアイマスクを着用し、視覚を遮断した状態でプレーする。シャビやカリム・ベンゼマといった世界的な名手でさえ、目隠しをすれば10回のリフティングすら難しい。常識的に考えれば、その状態でサッカーが成立するわけがない。
ところが、ブラインドサッカーは主に3つのルールにより、不可能を可能にした。ひとつ目は、転がすと音の出る特殊なボールを使うこと。振ると「シャカシャカ」と音が鳴り、プレーヤーがボールの位置や転がりを把握する手掛かりになる。
ふたつ目は、晴眼者のコーチング。GK、コート脇のコーチ、相手ゴール裏に立つコーラーという3つのポジションから、たとえばGKはDFに対して「当たりに行け!」と指示し、コーラーは「6メートル! 45度!」と相手ゴールの位置を伝えるなど、それぞれが声でコーチングして、視覚が遮られたフィールドプレーヤーの目となる。
3つ目のポイントは、ディフェンス側のプレーヤーがボールを取りに行く際に、「ボイ!」と発声して自分の位置を相手に知らせることだ。危険な接触を防ぐためのルールであり、「ボイ!」を発しなければ、ノースピーキングというファウルが取られる。
実際の試合を観れば、すぐにピッチ内にたくさんの「声」が飛び交っていることに気づくだろう。最近の少年サッカーでは選手同士のコーチングが少なく、淡々と試合が行なわれていると耳にするが、日本代表のキャプテンを務める落合啓士は「ブラインドサッカーでは、それはあり得ない」と断言する。
人間が得る情報の8割を占めるという「視覚」が遮断されたブラインドサッカーでは、味方のコーチングがなければ競技にならないのだ。
選手たちは試合中、頭の中にコート、自分の位置、ボール、ゴールといった空間を思い描いてプレーするそうだ。そしてコーチングによって「30度!」とゴールの位置が指示されると、「ああ、もうちょっとこっちか」と自分のイメージを修正する。
ほかにもサイドに置かれたフェンスにボールが当たる音など、ピッチ上のあらゆる「情報」を聞き漏らさぬよう、選手は高い集中力でセンサーを張り巡らせる。
視覚障がい者のサッカーと侮って観戦に行くと、度肝を抜かれるだろう。フットサルコートを使って5対5で行なわれるブラインドサッカーは、球際の当たりが非常に激しい。プレミアリーグも真っ青の迫力だ。
にもかかわらず、どんな激しい当たりを受けても選手は判定に対して文句ひとつ言わない。「抗議? そんなことをしていると、ボールの位置が分からなくなりますから」と日本代表の加藤健人は笑う。
研ぎ澄まされた状況認知と、味方を支え合うコーチング。すいすいと進むドリブルや、スムーズにつながるパス、見事に連係されたゾーンディフェンスには、相応の工夫が凝らされている。見えないからサッカーができない、ではなく、見えないからどう工夫するのか? そこがブラインドサッカーの醍醐味だ。
取材・文・写真:清水英斗(サッカーライター)
写真協力:日本ブラインドサッカー協会
※週刊サッカーダイジェスト11.25号(11月11日発売号)より
――◆――◆――
「見えない。そんだけ。」
11月16日、国立代々木競技場フットサルコートで開幕したブラインドサッカー世界選手権2014。そのポスターに飾られたキャッチコピーが目を引く。
それだけ、ではなく「そんだけ」。あえて選択したであろう、ぶっきらぼうな口語表現には、「信じないかもしれないが、目が見えなくても俺たちはサッカーができるんだぜ!」という強い信念が感じられる。
B1(全盲カテゴリー)において、視覚障がい者である選手たちは、視力の差をなくすためにフィールドプレーヤー全員がアイマスクを着用し、視覚を遮断した状態でプレーする。シャビやカリム・ベンゼマといった世界的な名手でさえ、目隠しをすれば10回のリフティングすら難しい。常識的に考えれば、その状態でサッカーが成立するわけがない。
ところが、ブラインドサッカーは主に3つのルールにより、不可能を可能にした。ひとつ目は、転がすと音の出る特殊なボールを使うこと。振ると「シャカシャカ」と音が鳴り、プレーヤーがボールの位置や転がりを把握する手掛かりになる。
ふたつ目は、晴眼者のコーチング。GK、コート脇のコーチ、相手ゴール裏に立つコーラーという3つのポジションから、たとえばGKはDFに対して「当たりに行け!」と指示し、コーラーは「6メートル! 45度!」と相手ゴールの位置を伝えるなど、それぞれが声でコーチングして、視覚が遮られたフィールドプレーヤーの目となる。
3つ目のポイントは、ディフェンス側のプレーヤーがボールを取りに行く際に、「ボイ!」と発声して自分の位置を相手に知らせることだ。危険な接触を防ぐためのルールであり、「ボイ!」を発しなければ、ノースピーキングというファウルが取られる。
実際の試合を観れば、すぐにピッチ内にたくさんの「声」が飛び交っていることに気づくだろう。最近の少年サッカーでは選手同士のコーチングが少なく、淡々と試合が行なわれていると耳にするが、日本代表のキャプテンを務める落合啓士は「ブラインドサッカーでは、それはあり得ない」と断言する。
人間が得る情報の8割を占めるという「視覚」が遮断されたブラインドサッカーでは、味方のコーチングがなければ競技にならないのだ。
選手たちは試合中、頭の中にコート、自分の位置、ボール、ゴールといった空間を思い描いてプレーするそうだ。そしてコーチングによって「30度!」とゴールの位置が指示されると、「ああ、もうちょっとこっちか」と自分のイメージを修正する。
ほかにもサイドに置かれたフェンスにボールが当たる音など、ピッチ上のあらゆる「情報」を聞き漏らさぬよう、選手は高い集中力でセンサーを張り巡らせる。
視覚障がい者のサッカーと侮って観戦に行くと、度肝を抜かれるだろう。フットサルコートを使って5対5で行なわれるブラインドサッカーは、球際の当たりが非常に激しい。プレミアリーグも真っ青の迫力だ。
にもかかわらず、どんな激しい当たりを受けても選手は判定に対して文句ひとつ言わない。「抗議? そんなことをしていると、ボールの位置が分からなくなりますから」と日本代表の加藤健人は笑う。
研ぎ澄まされた状況認知と、味方を支え合うコーチング。すいすいと進むドリブルや、スムーズにつながるパス、見事に連係されたゾーンディフェンスには、相応の工夫が凝らされている。見えないからサッカーができない、ではなく、見えないからどう工夫するのか? そこがブラインドサッカーの醍醐味だ。