日本市場への進出という思惑以上にフットボーラーとしての能力が評価されたからこその契約だ
久保のR・マドリー加入はスペイン国内でも驚きを持って伝えられた。なぜ「白い巨人」と呼ばれる超名門は日本の俊英の獲得に至ったのか。そして、世界各国のエリートが集まるカスティージャ(Bチーム)の熾烈なサバイバルを勝ち抜けるのか。スペイン紙のマドリー担当記者に、移籍の舞台裏とトップチーム昇格の可能性を探ってもらった。
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レアル・マドリーが久保建英を獲得したというニュースは、ふたつの理由からスペイン国内に衝撃をもたらした。ラ・リーガでは珍しい日本人選手であることがひとつ。もうひとつは、ライバルのバルセロナへの復帰が内定済みと思われていた選手を強奪したことだ。
しかしこの2点を除けば、久保の獲得に大きな驚きはない。マドリーは5、6年前から、ヨーロッパでブレイクする前のスター候補の「先物買い政策」を推し進めており、久保との契約もそうした補強戦略に沿ったものだからだ。
今夏マドリーは、エデン・アザールという世界的スターを獲得している。フロレンティーノ・ペレス会長は3年前からこのベルギー人アタッカーの引き抜きに動いていたが、オファーを出すたびにチェルシーから法外な移籍金を吹っかけられ、契約満了まであと1年となり価格が下がった今夏まで待つほかなかった。
アザールに限らず、ネイマール、キリアン・エムバペといった大物選手の移籍金は、いまや2億ユーロ(約240億円)以上が相場である。ペレスにとっては到底受け入れ難い金額だ。価格が高騰する一方の移籍マーケットにあって、従来のように世界的スターをかき集める手法は非現実的だと痛感し、ペレスは新たに先物買い戦略へと舵を切ったのだ。[編集部・注/今夏のアザールの移籍金は1億ユーロ(約120億円)]
その象徴的な例が、ヴィニシウス・ジュニオールとロドリゴの獲得だ。ブラジルの至宝である2人の超逸材を、ヨーロッパ上陸前に他に先んじて手に入れたのである。どちらも移籍金は10代の選手としては破格だったが、ネイマールやエムバペのそれとは比べるべくもない。
[編集部・注/ヴィニシウス、ロドリゴの移籍金はともに4500万ユーロ(約54億円)]
マドリーが久保を獲得した裏に、日本市場に本格的に進出したいという思惑があったのは事実である。トップチームに昇格して活躍すれば、大きな経済効果を生むであろうことは想像に難くない。
しかし、それはあくまで副次的な要素に過ぎない。日本人だからという短絡的な理由ではなく、なによりフットボーラーとしての能力を評価したからこそ契約を結んだのだ。
たしかに過去には、スペインのクラブがマーケティング先行で日本人選手を獲得した例もある。しかし、久保のケースはそれとは違う。これは声を大にして強調しておきたい。
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レアル・マドリーが久保建英を獲得したというニュースは、ふたつの理由からスペイン国内に衝撃をもたらした。ラ・リーガでは珍しい日本人選手であることがひとつ。もうひとつは、ライバルのバルセロナへの復帰が内定済みと思われていた選手を強奪したことだ。
しかしこの2点を除けば、久保の獲得に大きな驚きはない。マドリーは5、6年前から、ヨーロッパでブレイクする前のスター候補の「先物買い政策」を推し進めており、久保との契約もそうした補強戦略に沿ったものだからだ。
今夏マドリーは、エデン・アザールという世界的スターを獲得している。フロレンティーノ・ペレス会長は3年前からこのベルギー人アタッカーの引き抜きに動いていたが、オファーを出すたびにチェルシーから法外な移籍金を吹っかけられ、契約満了まであと1年となり価格が下がった今夏まで待つほかなかった。
アザールに限らず、ネイマール、キリアン・エムバペといった大物選手の移籍金は、いまや2億ユーロ(約240億円)以上が相場である。ペレスにとっては到底受け入れ難い金額だ。価格が高騰する一方の移籍マーケットにあって、従来のように世界的スターをかき集める手法は非現実的だと痛感し、ペレスは新たに先物買い戦略へと舵を切ったのだ。[編集部・注/今夏のアザールの移籍金は1億ユーロ(約120億円)]
その象徴的な例が、ヴィニシウス・ジュニオールとロドリゴの獲得だ。ブラジルの至宝である2人の超逸材を、ヨーロッパ上陸前に他に先んじて手に入れたのである。どちらも移籍金は10代の選手としては破格だったが、ネイマールやエムバペのそれとは比べるべくもない。
[編集部・注/ヴィニシウス、ロドリゴの移籍金はともに4500万ユーロ(約54億円)]
マドリーが久保を獲得した裏に、日本市場に本格的に進出したいという思惑があったのは事実である。トップチームに昇格して活躍すれば、大きな経済効果を生むであろうことは想像に難くない。
しかし、それはあくまで副次的な要素に過ぎない。日本人だからという短絡的な理由ではなく、なによりフットボーラーとしての能力を評価したからこそ契約を結んだのだ。
たしかに過去には、スペインのクラブがマーケティング先行で日本人選手を獲得した例もある。しかし、久保のケースはそれとは違う。これは声を大にして強調しておきたい。
マドリーが久保獲得に動いた要因としてもうひとつ挙げられるのが、中井卓大の存在だ。「ピピ」の愛称で親しまれる中井は、昨季はマドリーのカデーテA(U-16)に所属した。つねに熱心に練習に取り組み、周囲のアドバイスにしっかり耳を傾け、そして人一倍向上心が強い。マドリーのカンテラ(下部組織の総称)の関係者に話を聞くと、一様にプロ意識の高さを称賛する声が返ってくる。
天下のマドリーのカンテラに所属する選手なら、高いプロ意識を持っていて当然と思われるかもしれない。しかしその実、ピピが日々実践していることは、世界中から有力選手が集まる巨大なカンテラ組織であるがゆえに決して簡単ではないのだ。
選手たちを惑わせる要因となっているのが高額のサラリーである。マドリーでは、フベニール(U-19、U-18、U-17チームの総称)でも年間3万ユーロ(約360万円)を貰っている選手がざらだ。
使えるカネがあるだけに都会の誘惑に負けて練習に身が入らなくなり、そのままフェードアウトしてしまうケースも少なくない。その点ピピはまさに模範生であり、マドリーが同じ日本人の久保に同様の資質を認めたことは容易に想像できる。
天下のマドリーのカンテラに所属する選手なら、高いプロ意識を持っていて当然と思われるかもしれない。しかしその実、ピピが日々実践していることは、世界中から有力選手が集まる巨大なカンテラ組織であるがゆえに決して簡単ではないのだ。
選手たちを惑わせる要因となっているのが高額のサラリーである。マドリーでは、フベニール(U-19、U-18、U-17チームの総称)でも年間3万ユーロ(約360万円)を貰っている選手がざらだ。
使えるカネがあるだけに都会の誘惑に負けて練習に身が入らなくなり、そのままフェードアウトしてしまうケースも少なくない。その点ピピはまさに模範生であり、マドリーが同じ日本人の久保に同様の資質を認めたことは容易に想像できる。