「フットボールはメンタルだ」
 
　そう語られて、久しい。
 
　もっとも、それは多くのスポーツ競技に共通するだろう。何なら、一般社会での様々な駆け引きの場でも、大きな影響を及ぼすはずだ。不安やストレスに苛まれた状態では、本来の力を発揮することができず、良い仕事ができないし、試験にも失敗するかも知れない。
 
　メンタル。
 
　それは、人間の行動の根幹を担っている。
 
　そこでスポーツ界では、メンタルトレーナーなども存在する。スポーツは博打的な要素を持つ。気まぐれのような風向きの違いで、勝負の流れが変わることがある。そのプレッシャーは心に重くのしかかってくるだけに、サポートが必要になるのだ。
 
　しかしながら、どんなメンタルで行動すべきなのか、その「最適解」を出すのは極めて難しい。
 
　例えば、勝負の重圧に対しては、いかに向き合うべきか。
 
「失敗をイメージするべき」
 
　そんな向き合い方を実践する選手がいる。スポーツは勝ち負けが付くもの。「たとえ失敗しても、自分はどうにかなる」というセーフティーネットを作ることで、本来の力を出し尽くせる。心の安定が、身体を動かすのだ。
 
「失敗した時に、できるだけ早くリカバリーできる」
 
　最悪を想定することによって、メンタルの回復も早い。例えば、バックパスで失点したDFや、がら空きのゴールで空振りしてしまったストライカー。酷いミスだが、失敗に囚われている方が、次のプレーに支障を来すのだ。
 
　一方、その逆のメンタル・マネジメントを肯定する人もいる。
 
「負けることなんて考えない。勝者のみが成長する」
 
　絶対的な勝利論というのだろうか。アルゼンチン人選手には、こうした傾向が強い。｢負けを糧にする｣という感覚が薄い。勝負に対しては、常に全身全霊で挑み、勝利を手にする。マッチョな考え方。これはリオネル・メッシなどもそうで、一切の負けを肯定せず、自責の念が強いのだ。
 
　自分を追い込むことで、不条理や大きな壁をも乗り越えられる。
 
「背水の陣」
 
　そう表現しても良いだろう。必ず勝利を奪い取る、さもなければ――という心理で挑む。腹を括る、という表現も当てはまるだろうか。もしかすると、昔ながらの競技指導者は、こちらに流れる傾向があるかも知れない。
 
　覚悟。
 
　そう一言では言うもののが、果たしてどちらが正しいのか。そこには、表裏のメンタル・マネジメントが存在している。
 
　心の動きで、正解を問うのは難しい。それぞれの人間が育った環境や性向があって、十把一絡げにはできないだろう。置かれた状況によって、常に正解は変わる。
 
　強固な確信。
 
　めいめいが、それを持つしかない。
 
文：小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』（東邦出版）など多数の書籍を出版しており、2017年３月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』（東邦出版）を上梓した。