幼い頃からプロレスファンだった柏木にとって納得できなかったこと。
取材をしていると、時として、選手の意外な一面が見えるもの。それは浦和レッズのMF柏木陽介も例外ではない。
遡ること、2015年6月。浦和レッズがファーストステージを制覇した直後のことだった。
「なんでなんや。なんで武藤なんや……」
柏木がそうつぶやいた。柏木の言う武藤とは当時、浦和レッズ加入1年目のFW武藤雄樹だ。
この言葉からは武藤への嫉妬が感じられた。柏木はなぜジェラシーを抱いたのか。
15年6月26日。柏木は日刊スポーツの紙面に『武藤LOVE武藤』『浦和無敗Vであのポーズ使用公認に』の見出しを見つけた。
ここで少々、説明が必要だ。
まず“武藤LOVE武藤”の武藤とは浦和レッズの武藤雄樹。
そして、もうひとりの武藤が日本、アメリカで多くのベルトを巻いたプロレスラーの武藤敬司を指している。
“あのポーズ”とは、武藤敬司の決めポーズである「プロレスLOVE」。記事内の説明を引用すれば、
「親指、薬指、中指をくっつけ、人さし指と小指を立てた両手を、口の前で合わせた後に広げる。主にリングに片ひざをついて決める」
これが正調「プロレスLOVE」ポーズだ。
つまり、プロレスラーの武藤が、同じ苗字である浦和・武藤に「プロレスLOVE」ポーズのゴールパフォーマンスでの使用を認めたという内容だ。
しかし、幼い頃からプロレスをよく見ていた柏木にとって、武藤敬司はいまでも「天才」と評してやまない大ファンだ。長年のファンである自分をさしおいて、プロレスを詳しくないであろう武藤雄樹が憧れの人から、あの決めポーズの公認を受けることに納得できなかった。
その気持ちが「なんで武藤なんや」の言葉となった。
ちなみにその後、柏木は浦和・武藤を通じて、ようやくご本人と対面することができたそうだ。
少年時代の柏木はプロレス観戦にも足を運び、地元・兵庫で行なわれた新日本プロレスの興行を見に行った際、選手が入場する花道に長州力を見つけた。柏木少年は長州の身体を触ろうと花道に近づいたが、付き人に手をピシャリと叩かれ、触ることができず、悔しい思いをしたそうだ。
そして、プロレスファンなら、誰もが聞かれる質問を柏木にぶつけてみる。
プロレス最強は誰なのか――。
猪木か。長州か。あるいは武藤か。それとも前田か高田か……。すると柏木はほぼ迷わず「藤波辰爾」と意外な答え。藤波辰爾の名前を出すあたりは、なかなか玄人好みの渋い選択だ。
6メートル四方のリングで、己の身ひとつで観客を沸かせるプロレスに魅せられた柏木陽介は、たったひとつのボールで数万人の観客を歓喜の渦に巻き込む。
取材・文●佐藤亮太(レッズプレス!!)
遡ること、2015年6月。浦和レッズがファーストステージを制覇した直後のことだった。
「なんでなんや。なんで武藤なんや……」
柏木がそうつぶやいた。柏木の言う武藤とは当時、浦和レッズ加入1年目のFW武藤雄樹だ。
この言葉からは武藤への嫉妬が感じられた。柏木はなぜジェラシーを抱いたのか。
15年6月26日。柏木は日刊スポーツの紙面に『武藤LOVE武藤』『浦和無敗Vであのポーズ使用公認に』の見出しを見つけた。
ここで少々、説明が必要だ。
まず“武藤LOVE武藤”の武藤とは浦和レッズの武藤雄樹。
そして、もうひとりの武藤が日本、アメリカで多くのベルトを巻いたプロレスラーの武藤敬司を指している。
“あのポーズ”とは、武藤敬司の決めポーズである「プロレスLOVE」。記事内の説明を引用すれば、
「親指、薬指、中指をくっつけ、人さし指と小指を立てた両手を、口の前で合わせた後に広げる。主にリングに片ひざをついて決める」
これが正調「プロレスLOVE」ポーズだ。
つまり、プロレスラーの武藤が、同じ苗字である浦和・武藤に「プロレスLOVE」ポーズのゴールパフォーマンスでの使用を認めたという内容だ。
しかし、幼い頃からプロレスをよく見ていた柏木にとって、武藤敬司はいまでも「天才」と評してやまない大ファンだ。長年のファンである自分をさしおいて、プロレスを詳しくないであろう武藤雄樹が憧れの人から、あの決めポーズの公認を受けることに納得できなかった。
その気持ちが「なんで武藤なんや」の言葉となった。
ちなみにその後、柏木は浦和・武藤を通じて、ようやくご本人と対面することができたそうだ。
少年時代の柏木はプロレス観戦にも足を運び、地元・兵庫で行なわれた新日本プロレスの興行を見に行った際、選手が入場する花道に長州力を見つけた。柏木少年は長州の身体を触ろうと花道に近づいたが、付き人に手をピシャリと叩かれ、触ることができず、悔しい思いをしたそうだ。
そして、プロレスファンなら、誰もが聞かれる質問を柏木にぶつけてみる。
プロレス最強は誰なのか――。
猪木か。長州か。あるいは武藤か。それとも前田か高田か……。すると柏木はほぼ迷わず「藤波辰爾」と意外な答え。藤波辰爾の名前を出すあたりは、なかなか玄人好みの渋い選択だ。
6メートル四方のリングで、己の身ひとつで観客を沸かせるプロレスに魅せられた柏木陽介は、たったひとつのボールで数万人の観客を歓喜の渦に巻き込む。
取材・文●佐藤亮太(レッズプレス!!)