【連載】蹴球百景 vol.18「それぞれのU-20ワールドカップ」

カテゴリ:連載・コラム

宇都宮徹壱

2017年06月01日

個人的に興味深かったのは…。

初出場を果たしたバヌアツ。3戦全敗に終わったが、奮闘ぶりは光った。写真:宇都宮徹壱(Daejeon, Korea Rep. 2017)

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 韓国で開催中の2017 FIFA U-20ワールドカップを取材してきた。今回、現地で取材したのはグループリーグのみ。日本の3試合にプラスして、できるだけ多くのチームを見ておきたい、というのが一番の目的だったからだ。今大会は1会場で2試合が行なわれたので、結果として14試合、20チームを撮影した。育成年代の国際大会は、欧州や南米以外の大陸にも一定数の出場枠が与えられる。そのため、普段あまりご縁のない国々のサッカーを見ることができたという意味でも、何かとお得な大会であった。
 
 チームの完成度ではウルグアイ、戦力の充実度ではフランス、そして成長の度合いではベネズエラが印象に残っている。とはいえグループリーグが面白いのは、勝ち負けを度外視した魅力を持つチームを取材できることだ。個人的に興味深かったのが、ベトナムとバヌアツ。いずれも初出場であり、「ワールドカップ」と名の付くフットボールの国際大会に参戦すること自体、初めてのことであった(ベトナムはフットサルのワールドカップには出場経験がある)。当然ながら国民の期待や注目度は、常連国以上に高かったはずだ。
 
 まずベトナム。開催国の韓国を除けば、今大会最も多くのサポーターに後押しされたのは彼らだった。私が見たのは、オセアニアの常連国であるニュージーランドとの初戦であったが、バックスタンドの一部がチームカラーで真っ赤に染まり、まるでハノイで試合を見ているような気分になった。そしてサポーターの大声援に背中を押されるように、彼らは前半から飛ばしまくり、体格に勝るニュージーランドを気迫とスピードで圧倒する。後半は攻め疲れもあってパワーダウンしたが、ベトナムは「初めてのワールドカップ」で見事に勝点1を手にした。
 
 一方、人口わずか24万人のバヌアツは、今大会で最弱のチームと目されていた。実際、私が取材したベネズエラ戦では0−7という大差で敗れている。しかもPKを献上した際には、相手GKに決められる「屈辱」まで味わった。それでも彼らは心を折られることなく、最後まで相手ボールに食らいつこうと必死に走り続けたのである。結局、グループリーグで3戦3敗。順当な結果である。しかしバヌアツは、メキシコとドイツに2−3という大接戦を演じた。勝点は得られなかったけれど、彼らは胸を張って小さな島国に帰って行ったはずだ。
 
 それぞれの国が、それぞれの目標やテーマをもって臨んだ、今回のU-20ワールドカップ。この世代では10年ぶりの出場となった日本は、3年後の東京五輪を見据えながら「世界を体感する」ことが求められた。ラウンド16での敗退をどう見るか、意見が分かれるところではある。もちろん「参加することに意義がある」などと言うつもりはないが、武運つたなく敗れ去ったチームは、それぞれが「何か」を祖国に持ち帰ったはずだ。その「何か」を、どう今後に生かすのか──。勝敗以上に問われるのは、まさにその一点に尽きよう。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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