いま、イングランドでは、「次は誰が中国に移籍する」というネタが大きな話題を呼んでいる。
 
　その信憑性はさておき、先週にはズラタン・イブラヒモビッチ（マンチェスター・U）、ジョン・テリー（チェルシー）らが、「いずれは中国でプレーする」という噂が流れた。
 
　30代後半となったリーとイブラヒモビッチはキャリアの終焉が近づいているため、引退をする前に最後のひと稼ぎをしようと、チャイナ・マネーを求めて中国に飛び込むのも十分に考えられる。新たな文化に接する機会が得れることも移籍を選択する理由の一つだが、やはり中国移籍の最大のメリットは、「金」である。
 
　一昔前のビッグスターたちはキャリアの晩年に最後のひと稼ぎをしようと、アメリカのMLSに渡ることが多かった。そうした傾向は、日本、そして中東と場所を変え、今は中国にあるのだ。
 
　しかし、チェルシーから上海上港に移籍したオスカールのケースに関しては、これまでのパターンと異なっている。
 
　彼はまだ25歳だ。つまり、フットボーラーとして全盛期にある。今シーズンのチェルシーではベンチを温める機会が多かったとはいえ、まだまだ欧州トップリーグとブラジル代表で活躍できるはずのオスカールの中国行きは、異例中の異例だ。移籍金は約84億円、年俸は約29億円とたしかに破格だが……。
 
　現代のフットボーラーはかなりの金額のサラリーをもらっている。リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドといったトップスターでなくとも、年間で優に数億円を稼ぐのだ。そんな彼らがなぜ、選手としてのキャリアよりもマネーを優先するのか？　 私は不思議でならない。金が彼らの運命を大きく変える状況は、はたして健全だろうか？

　フットボールを始めた子どものときに、ほとんどの選手はプレーへの情熱と愛情で満ちていたはずで、彼らは金のために動くことはなかったはずだ。（もちろん少なからず金欲はあるにせよ）
 
　東アジアの大国に飛ぶことが、金以外で自身のキャリアにとってプラスになるのなら理解もできるが、オスカールが中国サッカーから学ぶことがどれほどあるのか。疑問が拭えない。
 
　チェルシーの指揮官であるアントニオ・コンテは、スター選手のマネー優先の移籍について次のように語っている。ちなみに、今冬のチェルシーからは件のオスカールとジョン・オビ・ミケルという２人が中国に渡っている。
 
「我々にとって最も重要なものは、情熱である。わかるかい？ フットボールへの情熱だよ。お金は情熱の次に来るものでなければならない。スポーツへの情熱、フットボールへの情熱の次にだ。今の中国マーケットは危険だ。それはチェルシーにとってというだけではなく、世界の全チームにとって危険なんだよ」
 
　私はこのイタリア人指揮官の言葉を同意する。
 
　自身が「心のクラブ」と語ったボカ・ジュニオルスに2015年の夏に復帰したものの、この冬に上海申花へと飛び、世界最高額（２年で94億円）を稼ぐというカルロス・テベスにしても、メリットとなるのは金だけだ。
 
　英雄ディエゴ・マラドーナは「テベスは良いオファーを受け入れただけ。私やリケルメでも同様のオファーをされたら、中国語を話していたはずだ」と語った。しかし私はやはり、フットボール界が金が最優先される世界になっていくことに、悲しさを覚えずにはいられない……。
 
文：スティーブ・マッケンジー
 
【PROFILE】
スティーブ・マッケンジー （STEVE MACKENZIE）
profile／1968年６月７日にロンドンに生まれる。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA（全米大学体育協会）主催の大会で優勝に輝く。