監督でさえ「そこまで走り回らなくてもいいんじゃないか」と声をかけるほどの献身性。
[全日本高校女子サッカー選手権 決勝] 十文字 1-0 大商学園/2017年1月8日/ノエスタ
オレンジのキャプテンマークを巻いた村上真帆(3年)は、常に足を止めることなく走り続ける。相手ボールにプレッシャーをかけ、パスを引き出すために位置取りを変える。中学年代でJFAエリートプログラム対象選手に選出され、海外遠征にも参加したほどの選手。そんなキャプテンが、十文字入学後はバイプレーヤーに徹した。
常に限界まで出し切る姿には、石山監督でさえ「オマエ、そこまで走り回らなくてもいいんじゃないか」と声をかけるほどだった。しかし、そうやって村上が競ってこぼれたボールはチームメートのゴールやアシストにつながっていく。「勝つために必要な、縁の下の力持ちでいいんです」(村上)。
これまでの十文字は、圧倒的な爆発力と大崩れを繰り返す脆さを抱えた、波のあるサッカー。いつしか「タレント揃いでうまいけれど、勝てないチーム」と囁かれるようになった。9割方試合を支配しながら、残り5分でひっくり返された2年前の春、東京都大会の3位決定戦後だった。「もう、誰かボクに勝ち方を教えてよ」と泣きつくポーズを見せた石山隆之監督は、その後、真顔に切り替えて「でも、見ていてよ。今年の新入生たちはしっかりやる子が多いから」と小声でささやいた。
村上に始まり、松本茉奈加、鈴木紗理、源間葉月、熊谷明奈ら、主力を形成する今の3年生は、指揮官がその頃から我慢強く使い続けた選手だ。彼女たちは3年間、痛い思いをしながら、「うまいだけでは勝てない」ことを、学んだ。その意識は彼女たちが最上級生になった今年、より強くなった。
キャプテンの背中は、チーム全体の意識をも変えた。もちろん華麗な攻撃サッカーからの切り替えに、戸惑った選手もいる。「選手との距離はさまざま。私と距離が遠い選手には、コーチ陣が間に入ってつないでくれた」と石山監督。村上もキャプテンとして、部員数59人の大所帯をまとめ上げるのに尽力した。
日ノ本学園戦終了後、2年生の蔵田あかりは、自分が決めた芸術的なループシュートには一言も触れず、「チーム全体で達成した無失点が嬉しい」と口にした。キラキラし過ぎず、重厚感のある“十文字2016-17モデル”は、地に足のついた戦いで優勝に一歩ずつ近づいていく。
そして、決勝戦の後半16分、村上のフォアチェックから相手守備陣の焦りを誘い、運命のボールを奪い返す。これまでスポットライトの当たるシーンをチームメートに譲ってきたキャプテンは、この場面ではためらうことなく、左足を振り抜いた。指揮官が「たまにあるんだ。厳しい試合での彼女の一撃が」と振り返ったシュートは、堅守を誇る大商学園・西村清花(3年)の牙城を破った。背負い続けた大任への報酬は、十文字サッカー部の歴史に刻まれる、日本一決定のゴールだった。
取材・文:西森 彰(フリーライター)
【PHOTOギャラリー】 十文字が大商学園との接戦を制し初優勝!
オレンジのキャプテンマークを巻いた村上真帆(3年)は、常に足を止めることなく走り続ける。相手ボールにプレッシャーをかけ、パスを引き出すために位置取りを変える。中学年代でJFAエリートプログラム対象選手に選出され、海外遠征にも参加したほどの選手。そんなキャプテンが、十文字入学後はバイプレーヤーに徹した。
常に限界まで出し切る姿には、石山監督でさえ「オマエ、そこまで走り回らなくてもいいんじゃないか」と声をかけるほどだった。しかし、そうやって村上が競ってこぼれたボールはチームメートのゴールやアシストにつながっていく。「勝つために必要な、縁の下の力持ちでいいんです」(村上)。
これまでの十文字は、圧倒的な爆発力と大崩れを繰り返す脆さを抱えた、波のあるサッカー。いつしか「タレント揃いでうまいけれど、勝てないチーム」と囁かれるようになった。9割方試合を支配しながら、残り5分でひっくり返された2年前の春、東京都大会の3位決定戦後だった。「もう、誰かボクに勝ち方を教えてよ」と泣きつくポーズを見せた石山隆之監督は、その後、真顔に切り替えて「でも、見ていてよ。今年の新入生たちはしっかりやる子が多いから」と小声でささやいた。
村上に始まり、松本茉奈加、鈴木紗理、源間葉月、熊谷明奈ら、主力を形成する今の3年生は、指揮官がその頃から我慢強く使い続けた選手だ。彼女たちは3年間、痛い思いをしながら、「うまいだけでは勝てない」ことを、学んだ。その意識は彼女たちが最上級生になった今年、より強くなった。
キャプテンの背中は、チーム全体の意識をも変えた。もちろん華麗な攻撃サッカーからの切り替えに、戸惑った選手もいる。「選手との距離はさまざま。私と距離が遠い選手には、コーチ陣が間に入ってつないでくれた」と石山監督。村上もキャプテンとして、部員数59人の大所帯をまとめ上げるのに尽力した。
日ノ本学園戦終了後、2年生の蔵田あかりは、自分が決めた芸術的なループシュートには一言も触れず、「チーム全体で達成した無失点が嬉しい」と口にした。キラキラし過ぎず、重厚感のある“十文字2016-17モデル”は、地に足のついた戦いで優勝に一歩ずつ近づいていく。
そして、決勝戦の後半16分、村上のフォアチェックから相手守備陣の焦りを誘い、運命のボールを奪い返す。これまでスポットライトの当たるシーンをチームメートに譲ってきたキャプテンは、この場面ではためらうことなく、左足を振り抜いた。指揮官が「たまにあるんだ。厳しい試合での彼女の一撃が」と振り返ったシュートは、堅守を誇る大商学園・西村清花(3年)の牙城を破った。背負い続けた大任への報酬は、十文字サッカー部の歴史に刻まれる、日本一決定のゴールだった。
取材・文:西森 彰(フリーライター)
【PHOTOギャラリー】 十文字が大商学園との接戦を制し初優勝!