ベルリン発「最も静かで、最も胸を打つ試合」が世界に送ったメッセージ

カテゴリ:ワールド

中野吉之伴

2016年12月26日

全くの無音のなか、選手、サポーターらは祈りを捧げ続けた。

誰もが心から哀悼の意を表したヘルタ対ダルムシュタット戦の前。 (C) Getty Images

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 ヘルタ・ベルリンのMF、ペル・シェルブレッドは「今日の試合前の黙祷は、絶対に忘れない」と、ブンデスリーガ第16節・ダルムシュタット戦の後に語った。
 
 起こるはずのない事件が、起こるはずのない場所で起こった。
 
 12月19日月曜日、ベルリンの繁華街ではクリスマスを目前に控え、それぞれが家族と、恋人と、友人と、楽しげにショッピングを楽しんでいたことだろう。多くの人々で混雑していながらも、自然とみんなの笑顔が溢れていたはずだった。
 
 一瞬で、そんな世界が暗転するとは誰が想像できただろうか。街の一角で開かれていたクリスマスマーケットに、一台の大型トラックが突っ込んできた。ドイツ全てのメディアが一斉に報じ始め、後の発表でISISによるテロ事件に。12人の死亡者と50人以上の負傷者を出した。
 
 痛ましい事件に誰もが心を痛め、そして怯えた。自分たちの生活は大丈夫なのだろうか……。だが、すぐに立ち上がった。
 
 ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は、「不安を抱いてはいない」と明言。事件のあった場所には多くの人が訪れ、ろうそくの灯をともした。市民のひとりは『ビルト』紙のインタビューに、「彼らに私たちを壊せたりはしない」と静かに、だが力強く語った。
 
 あるドイツ人有志グループは難民や移民たちと一緒に集まり、「We are the world」を歌った。人を、そして世界を信じられなくなる今だからこそ、人に、そして世界に見せ付けなければならない。自分たちは生きている、と。自分たちはともに生きていく、と。
 
 サッカー界の動きも早かった。20日(火)、21日(水)のブンデスリーガ全試合を予定通りに開催することを決定。各会場で黙祷が行なわれ、選手は喪章をつけてプレーすることとなった。
 
 ベルリン出身のバイエルンDF、ジェローム・ボアテングは「言葉にできない。僕の故郷ベルリンでこんな悲劇に見舞われた犠牲者とそのご家族の方に祈りを」という悲しみの言葉をツイートした。
 
 他にも、バスティアン・シュバインシュタイガー、ユリアン・ドラクスラー、ルーカス・ポドルスキ、ミヒャエル・バラック、アルネ・フリードリヒ、クリストフ・メツェルダーら、数多くの選手やOBがすぐに反応を示している。
 
 事件から2日後、僕はヘルタ対ダルムシュタット戦の取材でベルリンを訪れた。試合会場のオリンピア・シュタディオンは、事件が起きたブライトシャイド広場からわずか7キロしか離れていない。普段以上に厳しい入場コントロールのため、早めの会場入りが呼び掛けられた。
 
 本来はスタジアムDJが声を張り上げてファンを盛り上げるアナウンス、そして選手入場の音楽は自粛された。静寂がスタジアムを包み込むなか、両チームの選手と審判団がピッチに姿を現わす。オーロラビジョンは試合中、ずっと白黒だった。
 
 喪章をつけた選手がセンターサークルに集まる。試合前の黙祷。何ひとつ音は聞こえない。
 
 黙祷が行なわれることは、これが初めてではない。多くの人は静かに祈りを捧げるが、そんななかでごく少数、荒げた声を上げようとする者が必ずいるものである。だがこの時は、本当に無音だった。
 
 アウェーのダルムシュタット・サポーターも「ベルリン、強くあれ!」と書かれた横断幕を掲げて、ともに悲しんだ。
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