頂点に立つのは難しいが、その座を維持するのはもっと難しい。
ある代理人に聞いたところによれば、選手がキャリアの決断を迫られた時、多くの要素を考慮しながらも、最も重視するポイントは共通しているという。
【2016年欧州夏のメルカート】新天地を求めた主な選手まとめ
まずは、ピッチ上の可能性だ。どのクラブに行けば、最も高いレベルでプレーできるか――それは、こう置き換えられる。チャンピオンズ・リーグの舞台に立てるか、代表監督に注目されるようになるか、タイトル獲得の可能性はあるか……。
現在のクラブで出場機会が限られている場合は、新天地にそれを求めるケースも多い。
次に、ロケーションである。選手とその家族の多くは、魅力的な都市での生活を望む。欧州ではスペインが人気だ(南米出資選手に顕著である)。イングランド国内なら、ロンドン。国内外への交通の便が良く、豊かな文化を持ち、ショッピングやナイトライフも充実しているからだ。
そして、もちろん収入。提示された額が自分の能力に見合ったものか。それは自身が得られるベストの報酬か。より多くのサラリーを保証してくれる別のクラブに移った方が良いのではないか。資本主義社会においては、そう考えるのが当然だ。
他にも、監督は誰か、プレースタイルは自分に合っているか、クラブの特別な思い入れはあるか、等が主な焦点になってくる。ただ、先に挙げた3つの要素と比べると、優先順位は低くなるのが通例だ。
さて、「奇跡のプレミアリーグ王者」レスターでは、カンテがチェルシーに引き抜かれ、マハレズもR・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・Uなどから誘いを受けている。
一方、一時はアーセナル行きが確実といわれたエースのヴァーディーは一転、残留を決意した。
現在29歳の彼は、今年の頭に新契約を結んだ。それは彼がイングランド代表選手として、またプレミアリーグのスター選手として初めて交わしたサインである。
週休は8万ポンド(約1360万円)に増額、年俸にすれば400万ポンド(約6億8000万円)となり、そこに広告収入がプラスされる。
決して低くない報酬であるのは事実ながら、彼はこれまで高給を得てこなかった。21歳までは工場で働きながらプレーを続け、4年前まではノンリーグに所属。プレミアリーグでのプレー実績は2年しかなく、プレミアリーグ級のサラリーもまだ2年しか手にしていない。
イングランド代表の選手として相応しい額をもらうようになったのは、わずか数か月だけだ。
しかしその額ですら、スターリッジやウェルベック、ウォルコットの給料には及ばない。シーズン最優秀選手に輝いたイングランド代表選手でありながら、ヴァーディーは決してリッチとは言えないのである。
これに対し、レスターはさらなる契約の見直しをオファーし、新たな条件で4年契約を交わした。
レスターは今、新たな戦いに直面している。優勝を遂げたチームを維持するための戦いだ。
現実的な話をすれば、メガクラブが提示する金額と同等の報酬を、レスターが保証することはできないだろう。彼らの収入と予算は、ユナイテッドの4分の1に過ぎないのだから。加えてプレミアリーグは、クラブの収益によって賃金の上限を定めるルールを設けようとしている。
仮に人件費をどうにか捻出できたとしても、特定のスター選手に多額のサラリーを支払えば、新たな問題が浮上するだろう。選手間に嫉妬心が生まれ、不協和音が広がる可能性がある。そうなれば、最大の長所のひとつであるチームスピリットは失われてしまう。
複雑な問題だ。資金力に乏しいスモールクラブがセンセーショナルな成功を収めた時に直面する、宿命的なテーマとも言えるだろう。タレントの流出を可能な限り食い止めた状態で新シーズンに臨みたいところだが、それは言うは易し、行なうは難し、だ。
頂点に立つのは難しい。だが、その座を維持するのはもっと難しい。スポーツ界に限らず、全ての世界に通じる真理である。
文:オリバー・ケイ
翻訳:井川 洋一
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年7月21日号の記事を加筆・修正
【2016年欧州夏のメルカート】新天地を求めた主な選手まとめ
まずは、ピッチ上の可能性だ。どのクラブに行けば、最も高いレベルでプレーできるか――それは、こう置き換えられる。チャンピオンズ・リーグの舞台に立てるか、代表監督に注目されるようになるか、タイトル獲得の可能性はあるか……。
現在のクラブで出場機会が限られている場合は、新天地にそれを求めるケースも多い。
次に、ロケーションである。選手とその家族の多くは、魅力的な都市での生活を望む。欧州ではスペインが人気だ(南米出資選手に顕著である)。イングランド国内なら、ロンドン。国内外への交通の便が良く、豊かな文化を持ち、ショッピングやナイトライフも充実しているからだ。
そして、もちろん収入。提示された額が自分の能力に見合ったものか。それは自身が得られるベストの報酬か。より多くのサラリーを保証してくれる別のクラブに移った方が良いのではないか。資本主義社会においては、そう考えるのが当然だ。
他にも、監督は誰か、プレースタイルは自分に合っているか、クラブの特別な思い入れはあるか、等が主な焦点になってくる。ただ、先に挙げた3つの要素と比べると、優先順位は低くなるのが通例だ。
さて、「奇跡のプレミアリーグ王者」レスターでは、カンテがチェルシーに引き抜かれ、マハレズもR・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・Uなどから誘いを受けている。
一方、一時はアーセナル行きが確実といわれたエースのヴァーディーは一転、残留を決意した。
現在29歳の彼は、今年の頭に新契約を結んだ。それは彼がイングランド代表選手として、またプレミアリーグのスター選手として初めて交わしたサインである。
週休は8万ポンド(約1360万円)に増額、年俸にすれば400万ポンド(約6億8000万円)となり、そこに広告収入がプラスされる。
決して低くない報酬であるのは事実ながら、彼はこれまで高給を得てこなかった。21歳までは工場で働きながらプレーを続け、4年前まではノンリーグに所属。プレミアリーグでのプレー実績は2年しかなく、プレミアリーグ級のサラリーもまだ2年しか手にしていない。
イングランド代表の選手として相応しい額をもらうようになったのは、わずか数か月だけだ。
しかしその額ですら、スターリッジやウェルベック、ウォルコットの給料には及ばない。シーズン最優秀選手に輝いたイングランド代表選手でありながら、ヴァーディーは決してリッチとは言えないのである。
これに対し、レスターはさらなる契約の見直しをオファーし、新たな条件で4年契約を交わした。
レスターは今、新たな戦いに直面している。優勝を遂げたチームを維持するための戦いだ。
現実的な話をすれば、メガクラブが提示する金額と同等の報酬を、レスターが保証することはできないだろう。彼らの収入と予算は、ユナイテッドの4分の1に過ぎないのだから。加えてプレミアリーグは、クラブの収益によって賃金の上限を定めるルールを設けようとしている。
仮に人件費をどうにか捻出できたとしても、特定のスター選手に多額のサラリーを支払えば、新たな問題が浮上するだろう。選手間に嫉妬心が生まれ、不協和音が広がる可能性がある。そうなれば、最大の長所のひとつであるチームスピリットは失われてしまう。
複雑な問題だ。資金力に乏しいスモールクラブがセンセーショナルな成功を収めた時に直面する、宿命的なテーマとも言えるだろう。タレントの流出を可能な限り食い止めた状態で新シーズンに臨みたいところだが、それは言うは易し、行なうは難し、だ。
頂点に立つのは難しい。だが、その座を維持するのはもっと難しい。スポーツ界に限らず、全ての世界に通じる真理である。
文:オリバー・ケイ
翻訳:井川 洋一
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年7月21日号の記事を加筆・修正