ブラジル・サッカー復活の鍵は“過去”にあり――第2回「キング・ペレ」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェストWeb編集部

2016年07月05日

サントスと正式契約を果たした翌年に初のワールドカップ出場。

ブラジル・サッカーの勝者の歴史を作ったペレ。彼は世界のサッカーをも変えていった。 (C) Getty Images

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1950年、自国開催のワールドカップで絶対的な本命と言われながら準優勝に終わった日から、サッカー王国・ブラジル代表の苦悩の日々が続いていた――。

ペレの伝記映画の公開にちなみ、現代の迷えるブラジルが復活するためのヒントを探るために、ペレの時代のブラジルを振り返る連載の第2回。所属するサントスでメキメキと頭角を表わしたペレは、17歳にしてセレソンの一員としてワールドカップに挑むことになる。~第2回(全3回連載)


われわれはなぜ映画「ペレ~伝説の誕生」に魅せられるのか?


 ブラジルが悲しみに打ちひしがれ、サッカー界が自信を失った時、ひとりの少年が強い決意を固めた。
 
「いつか絶対、僕がブラジルをW杯で優勝させるから!」
 
 自国開催のワールドカップ、決勝リーグ最終戦でブラジルがウルグアイに逆転負けした時、1940年10月23日生まれのエドソン・アランテス・ド・ナシメントはまだ9歳だった。
 
 家族には「ジッコ」と呼ばれたエドソン少年は、教育を重視する厳格な母親の目を盗んでサッカーに没頭。元プロ選手の父ドンジーニョからサッカーの技術、そしてブラジル・サッカーの“真髄”を教え込まれ、草サッカーのなかで、子どもとは思えない技を披露するようになった。
 
 好きだったサッカー選手「ビレ」をうまく発音できず、「ペレ」と言ったことを皆にからかわれ、自身がそのニックネームで呼ばれるようになるが、エドソン少年はこれを嫌がり、それが原因で喧嘩に発展することもしばしばあった。
 
 しかし、本人の希望とは裏腹に、その類稀なサッカーの才能は、「ペレ」という名とともに世間に広く知られていくこととなる。
 
 人生の転機が訪れたのは15の時。父の友人でもあるヴァルデマール・デ・ブリトの仲介により、サンパウロ近郊の街のプロクラブ、サントスに入団することとなったのだ。
 
 長く過ごしたバウルの街をひとり後にし、サントスで寮生活に入ったペレは、ユースチームで、競技としてサッカーを学び、苦労しながらも組織プレーを学んでいく。すると、リザーブチームを経て、早くもトップチームでプレーする機会が巡ってきた。
 
 56年9月7日、コリンチャンスとの親善試合だ。ここで、15歳の少年は早くもゴールを決め、戦力として認知されるようになる。
 
 さらに57年、サンパウロ州選手権に出場していきなり得点王となる。キャリアのなかで11回も獲得することになるタイトルを、16歳で初めて手にしたペレは、同年4月にサントスと正式に契約を結んだ。
 
 ペレの才能は、多岐にわたっていた。まだ発育途中でありながら、その身体能力は非常に高く、また均整が取れていた。171センチと決して身長は高くないものの、その優れた跳躍力で空中戦にも強く、脚力、走力もあり、当たり負けしない強さも有していた。
 
 そして何より、幼い頃から空き地や道路で培った高度なテクニック、創造性、即興性はトップレベルでも相手選手を驚かせ、見る者を魅了した。
 
 58年に早くも2度目のサンパウロ選手権得点王となった彼は、サントスの先輩、ジト、ペペ、ジウマールらとともに、58年スウェーデン・ワールドカップの出場メンバーに選出された。
 
 ペレがいかに神童だったとはいえ、これはブラジル国民にとって、そして何よりペレ自身にとってビッグサプライズだった。
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