連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】スペクタクルな日本の「走られすぎる」落とし穴

カテゴリ:日本代表

熊崎敬

2016年03月30日

後半は逆襲からピンチを迎える場面が相次いだ。

終盤のゴールラッシュでシリアを突き放したが、カウンターから何度かピンチを招いた日本。「攻めているときに組織をどう維持するか」とハリルホジッチ監督も課題を口に。 (C) SOCCER DIGEST

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 5つのゴールが飛び出し、ハリルホジッチ監督が記者会見で「スペクタクル」という言葉を連呼したシリア戦。それは日本代表が弱点を露呈したゲームでもあった。
 
 終盤の3ゴールによって日本はシリアを突き放したが、後半は逆襲からピンチを迎える場面が相次いだ。
 
 83分、86分、89分と立て続けに訪れた大ピンチは、ほとんど同じパターンだ。敵陣の深いところでボールを失い、スカスカになった中盤を一気にドリブルで走られる。
 
 あってはならない「走られる」現象が起こるのは、ひと言でいえば攻めすぎているからだ。
 
 シリア戦ではハリルホジッチ監督が強調する、縦への速い攻撃が随所に見られた。
 
 縦パスを受けた本田や香川が、敵を背負った状態からダイレクトで縦へのルートを狙い、それは何度かチャンスにつながった。
 
 だが日本は、この縦に速い攻撃を大勢でやろうとする。
 
 左の宇佐美がボールを受けると、その大外には長友が駆け上がっているし、右の酒井高にしても同じだ。サイドバックだけでなく、ボランチの長谷部あたりもペナルティエリアに進出する。
 
 この攻撃性はときとして危険を招く。
 
 縦に速い攻撃は難しいコースを突く分、敵に遮断される確率が高い。しかも日本は前述したように多くの選手が攻めに参加するため、ボールを失った瞬間、大勢が敵陣に置き去りになりやすい。その結果、吉田や森重が敵に包囲され、大ピンチを迎えるのだ。
 
 このあたりの課題は、ハリルホジッチも承知している。
 
「スペクタクル」を連呼しながらも、今後の課題について訊かれた指揮官は、「組織を維持することだ。攻めているときに、組織をどうキープするかが課題だ」と述べた。
 
 この夜はシリアが相手だったから破綻せずに済んだが、ヨーロッパや南米の列強だったら大敗も考えられた。ハリルホジッチにも、そうした思いがあるのだろう。
 
 ハリルホジッチの語るオーガナイズとは、言い換えればポジショニングのことだ。これは「流動的」や「運動量」という言葉が持て囃されてきた日本で、軽視されてきた概念である。
 
 日本代表では選手が一か所に固まりすぎたり、約束事もないまま持ち場を離れたりするシーンがあるが、それは日本人が数的優位を重視していることの証でもある。
 
 個人の力では列強に敵わないなら、数の力で局面を解決すればいい——−。
 
 いつしか日本人は、そう考えるようになった。だからボールサイドには、つねに多くの選手がスタンバイしている。だが、こういう攻めはカウンターに弱いものだ。
 
 ハリルホジッチ監督が訴える「組織の維持」は、日本伝統の手数のサッカーとは相反するところがある。
 
 組織を維持しながら攻めるとなると、日本代表は四方八方から次々と手が出てくるような、持ち前の忙しい攻撃ができなくなってしまうかもしれない。
 
 6万近い大観衆が酔いしれた、埼スタのスペクタクルな夜。だが、歓喜の陰に大きな不安が残された。
 
取材・文:熊崎敬
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