◇松田直樹：1977年３月14日生まれ 群馬県桐生市出身

　健康そのものといったプロスポーツ選手といえども、いつ病に身体を蝕まれるか予測はできない。そしてそれは、時に最悪の結末をもたらすことがある。
 
　U-17から各年代の代表チームに名を連ね、全てのメジャーイベントに出場した日本サッカー界の超エリートであり、クラブでは横浜F・マリノスで数々の栄光を手にした松田直樹は、2011年８月４日、突然逝ってしまった。
 
　この年、彼は住み慣れた横浜を離れ、当時JFLの松本山雅に加入。Jリーグ昇格を目標に、リーダーとして若いチームを引っ張っていた矢先の８月２日、練習中に急性心筋梗塞を起こして意識を失い、２日後に34年の生涯に幕を閉じた。
 
　日本サッカーを代表する名DFであり、技術だけでなく、闘争心を前面に押し出した姿にファンは酔いしれ、彼もまたファンへの愛情を隠すことがなかった。
 
　人々の心と記憶のなかで永遠にプレーし続ける背番号３。その39回目の誕生日に祝福の言葉を贈りたい。
 
　ちなみに現役選手ではないが、81年から95年まで松下電器（→ガンバ大阪）、セレッソ大阪で主にMFとしてプレーし、引退後は以降はC大阪で指導にあたっていた久高友雄もまた、３月14日生まれ。そして彼もまた、胃癌によって99年９月22日に他界している（享年36）。
 
　G大阪といえば、Jリーグの創成期にDF、MFとして活躍し、94年にはファルカン体制の日本代表にも招集された今藤幸治は、96年に脳腫瘍が発覚。その後、長く闘病生活を送ったが、03年４月17日に永眠。まだ30歳の若さだった。
 
　海外では、95年４月25日のアンドレア・フォルトゥナートの死が、イタリアに大きな衝撃と悲しみをもたらした。ユベントスでポジションを獲得し、イタリア代表にも招集された左SBは、急性リンパ性白血病によって、その前途を絶たれてしまった。
 
　95年の春といえば、ユベントスが９シーズンぶりのリーグ優勝に向けて足場を固めつつあった時期。歓喜の瞬間を待ち望むファンは、突如もたらされた悲報に言葉を失った。そしてリーグ優勝を決めた時、チームメイトたちはスクデットを天に召された23歳の青年に捧げた。
 
　南米では、86年にトヨタカップでステアウア・ブカレスト下して世界一に輝いたリーベルのFW、ファン・フネスが92年１月11日に28歳でこの世を去っている。
 
　この迫力満点のFWは、次代のアルゼンチン代表のエースストライカーとして期待されたが、90年に心臓病を罹患。５度も大手術を受けるなど、懸命に病と戦い続けた彼の勇気をアルゼンチン国民は称え、その葬儀にはディエゴ・マラドーナら、当時のトップスターが多く参列した。
 
　心臓疾患は、多くの悲劇をサッカー界に引き起こしている。日本も出場した03年６月26日のコンフェデレーションズカップ準決勝では、カメルーンのマルク＝ビビアン・フォエ（28歳）がコロンビアとの試合中に突如倒れ、迅速な処置にもかかわらず、そのまま息を引き取った。
 
　以降も、04年１月25日にベンフィカのミクロス・フェヘール（24歳）が、07年８月25日にはセビージャのアントニオ・プエルタ（22歳）が、多くの観衆が見つめるなかでピッチに倒れている。つい先ほどまで元気な姿を見せていただけに、周囲の悲しみと衝撃はあまりに大きかった。
 
　09年８月８日には、エスパニョールのダニエル・ハルケ（26歳）が、遠征先のイタリア・フィレンツェのホテルで心筋梗塞を起こして死去。こうして心臓の病に倒れる選手が続出したのを受け、現在では、どのクラブもメディカルチェックと医療体制、安全なトレーニングの導入に力を注いでいる。
 
　ピッチ上での勝ち負けによる“悲劇”はサッカーにドラマ性をもたらすが、人の生き死による悲劇はもういらない。ここで取り上げた以外にも多々おられる、病に倒れた選手たちの冥福を、改めて祈りたい。（敬省略）