２年ぶりの選手権は、『天国と地獄』を味わってきた３年生にとって、格別なものだった。もしかすると、味わったのは『“悔しさ”と地獄』だったかもしれない。
 
　前々回の選手権、富山一は快進撃を続け、決勝では最後の国立競技場で星稜との北信越ダービーを、２点差をひっくり返す劇的な勝利で制し、見事に北信越勢初の全国制覇を果たした。
 
　だが、歓喜に包まれるピッチ、そしてベンチに１年生（現３年生）の姿はなかった。彼らのほとんどがこの瞬間をスタンドで見ていた。
 
　そして迎えた昨年度、『選手権王者』の看板を背負い、新チームがスタート。しかし、そこからは苦しみの連続だった。
 
「優勝した年は３年間積み重ねていったけど、去年は優勝メンバーが西村拓真（仙台）ら３人しかおらず、他のレギュラーはほとんどが１、２年生の状況だった。３年間の積み重ねから、もう一度最初からやらなければいけなかった。チームにしようとしたが、難しかった」（大塚一朗監督）
 
　新チームの状況がどうであろうと、容赦なく付いて回る『選手権王者』の看板。このアンバランスにチームは苦しんだ。そして、インターハイ予選の準決勝で高岡一に敗れると、プレミアリーグWESTからも降格。そして選手権予選でも準決勝で敗れるという、『地獄』の１年となってしまった。
 
　だが、１年生の時に味わった『喜び』と、その一方で見るだけだった『悔しさ』。２年生で味わった『地獄』。今年の３年生には大塚監督の言う『積み重ね』があった。
「今年は昨年のレギュラーが多く残った。昨年の経験をベースにして、積み上げていく。より流動的なサッカーを目指したい」（大塚監督）
 
　指揮官の想いを選手たちはしっかりと具現化した。インターハイ予選こそ昨年度と同様に準決勝で敗れてしまったが、選手権予選はライバルの水橋にPK勝利、決勝では富山東を２-０で倒して２年ぶりの選手権出場を果たした。
 
　柴田丈一朗と坂本裕樹の２トップ、ボランチからサイドにコンバートした賀田凌、ボランチからCBにコンバートした早川雄貴、トップ下の河﨑輝太、怪我から復帰した右SBの放生祥季、GK相山竜輝、そしてスタメン唯一の２年生であるMF久保佳哉。彼らが経験を力に変え、チームとして高い連動性のある攻撃と、相手の良さを消すハードワークを見せ、チームは強固な組織となった。
 
　今大会では初戦で日章学園を相手に坂本のゴールを守り切り、２年ぶりの選手権勝利を飾ると、３回戦では矢板中央の高さとパワーに耐え、後半アディショナルタイムに劇的な逆転弾で２-１の勝利。準々決勝まで駒を進めた。
 
　２年ぶりの頂点も見えて来たが、準々決勝で青森山田を相手に善戦をしながらも、０-１の敗戦。彼らの選手権は幕を閉じた。
 
「個性が違う相手との戦いのなかで、彼らは臨機応変に戦ってくれた。優勝したチームとはやり方が違い、彼らの積み重ねのなかで自分たちの形で戦ってくれた」（大塚監督）
 
　失望感を味わいながらも、我慢を続け、自分たちがやるべき戦い方を構築した。この積み重ねがあったからこそ、不遇の時を経て、選手権ベスト８までやってくることができた。
 
「ここまでサッカーができたのは、いろんな人が僕らを支えてくれたおかげ。本当に感謝しています」
 
　この早川の言葉は、今年の３年生全員の想いを代弁したものだった。彼らは「我慢の先にはなにかがある」ことを、身をもって後輩たちに教えたのだ。あとは１、２年生がこの教えをしっかりと受け継ぐことができるか。３年生が今大会を通じて、後輩たちに温かいメッセージを送った。
 
取材・文：安藤隆人（サッカージャーナリスト）