「絶対に俺がヒーローになるんだ！」
 
　０-０と90分間で決着がつかず、延長開始と同時にピッチに立った李忠成は、そう心で唱えていたという。PK戦ではなく、120分でケリをつける――。シャドーに入った李は、闘志に満ち溢れていた。
 
　94分、サイドからのロングボールを武藤雄樹が胸トラップで落としシュートチャンスを迎えたが、李は枠を大きく外してしまう。その後は両軍一進一退の攻防となり、浦和も我慢の時間が続いた。
 
　そして迎えた117分、左サイドの梅崎司が相手に当たったボールを素早く拾うと、縦に仕掛けて左足でクロスを供給。相手DFの上をすり抜けたボールに、ドンピシャのタイミングで李が頭で合わせ、ついにネットを揺らした。
 
「あの一撃で99パーセント、試合が決まってしまった」（吉田監督）
 
　敵将をそう唸らせる見事な決勝弾で、チームを2006年以来のファイナル進出に導いた。殊勲の李は、得点シーンをこう振り返る。
 
「相手にくっつぎすぎたら点は取れないと思った。すごくいい感じで距離感を取りながら、自分のスペースを確保することを意識していた。相手DFが触るか触らないかのところで僕のところにボールが落ちてきたけど、もし変に動きすぎたり突っ込んでいたら、取れるものも取れなかったと思う。あそこにいた“落ち着き”は自分なりに評価できる」
 
　３日前の準々決勝・神戸戦では１得点・２アシストを記録するなど、今の李は心技体ともに最高の状態にある。前の試合後に「自分がこの大会のヒーローになる」と公言していたため、記者陣から「有言実行ですね」と問われると、不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。そこには精神的な余裕と自分への自信が滲み出ていた。
 
「『有言実行』と言うのはあまり好きではないけど、それくらい自信がある。得点は水物だから、いくら技術があっても、いくら努力していても、取れない時は取れない。でも、今は自分に良い風が吹いているんで」
 
　ファイナル進出を決め、来年のACLがプレーオフからの出場ではなく、本選からの出場に決まった（※決勝の相手であるG大阪はすでに本選出場の権利を獲得）。海外でのプレー経験がある李にとって、アジアの舞台で戦えることは勝利と同じくらい嬉しかった。
 
「ACL（出場）が決まったことはなにより大きい。ACLの試合やクラブワールドカップを見ると、自分もあの舞台に立ちたい。ミシャ（ペトロヴィッチ監督）のサッカーは独特だから、海外の人が見たら驚くと思う。来年その切符を手にしたのは本当に嬉しい」
 
　もちろん、ファイナル進出で満足したわけではなく、狙うのはあくまで優勝だ。対戦するG大阪は、チャンピオンシップ準決勝で敗戦を喫したライバル。相手の力を認めたうえで、李は試合の展望を語った。
 
「最後（決勝）は運もある。サイコロの目が１か６だとするなら、自分の努力次第で６の面が増えると思う。しっかり準備して６の面を増やしていきたい」
 
　リーグチャンピオンを逃し、タイトル獲得に燃える浦和にとって今の李はまさに“ヒーロー”。2016年元旦のピッチで、彼が歓喜の中心にいても不思議はないだろう。
 
取材・文：小田智史（サッカーダイジェスト編集部）