バルサが誇るメッシ、スアレス、ネイマールの「MSN」トリオは、クラブワールドカップでも話題の的となったが、リーガにはもうひとつ、充実の時を過ごしているアタッカー陣がいる。
 
　それが、ビジャレアルのロベルト・ソルダードとセドリック・バカンブのコンビだ。
 
　今シーズン前半戦、ふたりは息の合ったプレーを見せてスペインを席巻。第16節終了時でバカンブは６ゴールを決めてチーム得点王、ソルダードはアシストランキングでベイルに次ぐ２位につけている。
 
　新加入のバカンブは開幕前、それほど大きな期待をされていたわけではなかった。トルコのブルサスポルから加わった彼は、当初は先発予想からも外れていた。ところが、そのドリブルとスピードで定位置を掴むと、チームの得点源となった。
 
　圧巻は、マドリー戦でのパフォーマンスだ。対面するS・ラモスを圧倒し、チームに勝利を呼び込んだ。特に、ドリブルでまた抜きを披露した場面での冷静さと技術、そしてスピードは秀逸だった。開幕前の注目度を考慮すると、今シーズンのリーガで最も評価を上げた選手だろう。
 
　そのバカンブをサポートしているのが、円熟期を迎えたソルダードだ。今シーズンの彼には、大きな成長が見られる。
 
　かつてはエリア内での仕事に集中し、点で合わせるフィニッシャーだった彼が、組み立てやアシストで大きな貢献を見せているのである。バカンブへのアシストも多く、このコンビが機能するか否かの鍵は、ソルダードが握っている。
 
　プレミアリーグではトッテナムで失意の２年間を過ごしたソルダード。昨夏で30歳となったこともあり、「終わった選手」との見方は、英国だけでなく、バレンシアでのポジティブなイメージの残るスペインでさえ大多数を占めていた。
 
　何しろ、彼が最後にリーグ戦で得点を決めたのは、昨年11月のトッテナム対エバートン戦である。約９か月間もゴールから離れ、昨シーズンは24試合でこの１点のみ……。期待値は低かった。
 
　しかし、今シーズンのソルダードは、水を得た魚のように生き生きとプレーしている。バカンブという相性の良いパートナーを得たことも大きな理由だろう。
 
「ビジャレアルは、攻撃的姿勢を貫いている。攻撃でははっきりしたアイデアがあるし、きっと何かを達成できる」（ソルダード）
 
　ビジャレアルは現在５位。チャンピオンズ・リーグ（CL）出場圏内の４位につけるセルタを、勝点差わずか１で追いかけている。地中海沿いの小さな町であるビジャレアルには、数年前に戦った懐かしきCLを再び夢見るファンも多い。
 
　後半戦、このチームの躍進が続くかどうかは、突破力やコンビネーションの成熟度ではMSNにも引けを取らないバカンブ＆ソルダードの勢いにかかっている。
 
文：豊福 晋
 
【著者プロフィール】
豊福晋／1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、４か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。