太田がサッカー選手としてキャリアを築くうえで、パワーの源になったものとは果たしてなんだったのか？　明るいキャラクターからは想像もつかない知られざる“過去”から、それを探ってみた。

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　2010年あたりから、宏介は神奈川県にある寒川神社に６歳年上の兄・大哉と初詣に行くようになった。年末に母・祐子から「今年も良い年だったね、頑張ったね」と労いの言葉を掛けられても、宏介は満足した表情など浮かべない。

「いや、来年はもっと良い年にするんだ」

　そう意気込んで、神社に出向くのだ。絵馬に“ある文字”を書くために──。

　1987年、東京都町田市に生まれた宏介は、町田市がサッカーどころという背景もあり、５歳の頃から自然とボールを蹴るようになった。当時大流行していたファミコンや漫画などに見向きもせず、外で泥んこになって遊んだ。

　本人曰く「小学生の頃はちょっとしたお坊ちゃんだった」宏介は運動神経に加えて友だちにも恵まれ、比較的不自由なく育った。とりわけ楽しかったのが、『つくし野サッカースポーツ少年団』で過ごした時間だ。強くなる以上にエンジョイがモットーのクラブ方針が、当時の彼に合っていたのだろう。毎日、笑顔が絶えなかった。

　ところが、中学生になると大きな転機が訪れる。

　両親の離婚……。３年生の時、「ママ、離婚するね」とショッキングな事実を告げられた宏介は、その場に１時間ほど立ち尽くした。思春期真っ只中でなかなか気持ちを上手く整理できなかった彼を、そこからしっかりと支え、人生の道標を示したのは兄の大哉だった。

「母と僕と弟。３人で新しい生活をスタートさせるタイミングで、弟との接し方を少し変えました。当時、僕はもう大学生でしたから、大人になりきっていない宏介と違って（離婚前後の）家庭状況は大体把握していました。だから、『俺が父親代わりになる』と決めました」（大哉）

　父親のように厳しく、そして優しく接してくれた兄のおかげで、宏介は反抗期もなく真っ直ぐに育った。嬉しかったのは、大哉から投げられたひと言。「お前にはサッカーがある」。その才能を誰よりも信じていた兄の強い想いが、宏介にとってまだ見ぬ未来への希望となった。

　両親の離婚後、宏介は母・祐子に連れられて一軒家から古びたアパートに引っ越した。その夜、大哉を含む３人は狭い一室の中で“親子の誓い”を立てる。とにかく１日も早くここから脱出しよう、と──。

　金銭的な余裕はなく、「文字通り底辺からのリスタート」（宏介）だった。それでも、宏介と大哉には「必ず這い上がってみせる」という揺るがない信念があった。

「いつかふたりでお金を稼いで、母親を楽にさせる」

　太田兄弟のなかには確固たる目標が芽生えていたのだ。そんな息子たちを見て、祐子は目を潤ませた。

「それまで子どもたちの前で泣いたことはなかったのですが、さすがにあの時は……。『ああ、もう子どもたちは私を超えたな』と、素直にそう思いました」（祐子）